第6話宗教改革の火種

「宗教改革っていきなりできるもんじゃないだろ」

「火種はあったのさ。それをお前が殺したがっていた女が煽ったのじゃ」

 火種か……。

 ノーディアスでは教会と貴族は税金が免除されている。教会は結界を守護する役目から荘園を持っているし、貴族は魔族との戦争や公共事業の為に領民に重い税金を課している。

 そして魔族の領域に近い辺境に住むエルフや獣人達は中央のように教会の恩恵も受けにくいという不満がある。要は聖女や聖騎士の巡回ルートにあまり組み込まれていないのでろくに結界のメンテナンスも出来ていないということだ。エルフは自力で何とか出来なくもないようだが魔法があまり得意でない獣人にとっては死活問題。

 結界はノーデンスの加護と言い換えてもいいが、大抵は町の中心にある教会に納められた聖遺物と呼ばれる物が核となっている。この聖遺物にノーデンスの祝福を受けた聖女や聖騎士が魔力を注ぎ込むことで周辺地域一帯に下級魔族の退散、作物の豊穣などの効果が得られるのだ。

 辺境での一揆だの反乱だのは転生者が介入すれば野火のように燃え広がり、制度が変わったことは一度や二度ではない。しかし要の転生者が世を去ればまた教会と貴族が幅を利かせるようになるのがノーディアスの特徴だった。

「辺境の不満をノーデンスの意思だから解決することはないとでも言ったのか?」

「ほほっ、概ね当たりじゃ。そこに王弟ヴォーディガンがつけ込んだのさ」

「じゃあ明日はウーサー王と教会への強訴からクーデターに変わるのか」

「そうなれば戦乱の世になるのは確実よな」

 そこからメレアガンスが原作漫画と認識していた『マビノギオンの旋律』に話が繋がってくるのか。たしか主人公ランスが仕えるアーサー王は政治も宗教も滅茶苦茶にしたヴォーディガンを倒してノーディアスに秩序を取り戻した英雄という設定だったはず。

 ……物凄く嫌な予感がする。

「そうか。サクッと死んで出直すことにするよ。ありがとうハスター」

 首に短剣を押し当てる。まあ正体がこんにちはしてもハスターなら大丈夫だろう。

「待て待て。ただでこんなことを教えると思っているのか」

 いくら力を入れても短剣はピクリとも動かず、俺はハスターの言うことを聞くしかない。くそったれ。

「明日わしはヴォーディガンに教主の座に据えられる予定だが、わしはノーデンスとやり合いたくはない。というわけで逃げることにしたんじゃが、わし一人で動くにはやりづらい。というわけでお前、わしのキャラバンに入ってくれんか?」

 ハスターはノーディアスでは辺境近くの砂漠の商人たちが信仰する風の神だ。商人たちはキャラバンを組んで町から町へ移動しながら商品を売り買いするのだが、魔王が復活する時期になると重税をかけられる向きが強い。その対策にと聖女や聖騎士をキャラバンに組み込むことは珍しくないが明日からの政治情勢でそれやっていいのか?

 おそらく辺境の商人や獣人たちとヴォーディガンが手を組み、ノーデンスに代わる神としてハスターを召喚したのだろう。教主を紛失したヴォーディガン勢力は血眼になってこいつを探すだろうし、クーデターを起こした商人たちに教会もいい顔をしないのは間違いない。

 目の前の子供は落とし子にハスターが取り憑きでもしたのか、依代をそのまま使っているか不明だがニヤニヤと笑っている。

「ほぼ強制だろうふざけんなよ」

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