第5話黄衣の王

 とんとん拍子に事は進み、無事教会に出家することが出来たし、聖騎士の座もゲットした二十歳を迎えたある日。

 明日こそカメラ役をぶっ殺せると夢にまで見たノーデンスの神殿への初の参拝日のことである。いやそれにしてもここまで長かった。どれくらい長いかと言うとアマ〇ラを五六周してもまだ足りないくらいに長かった。ネト〇リに手を出すか真剣に悩んだもんね。dア〇メには手を出したけど。

 聖女や聖騎士はこのノーデンスの天地創造の日になると神殿の城下町である聖都ノーリアスに集まり、ノーデンスを讃えながら街を行進する。ま、要は聖女と聖騎士のパレードな。

 そしてパレードの終着点であるノーデンスの神殿へ着くとその年叙任された聖女と聖騎士を先輩達が寿ぎ、特別な洗礼を受けさせる。この洗礼を経て正式に聖女、聖騎士になったということになる。その後全員でノーデンスへ祈りを捧げると、数人にノーデンスからの神託が下される、という流れである。

 俺は今年叙任された聖騎士なのでパレードと洗礼の間は身動きできない。神託の下る祈りの時間に抜け出してカメラ役の女官を殺す。後は野となれ山となれだ。ノーデンスと戦ってやってもいいかもしれない。

 宿屋で式典服の準備をしていると木製の窓を外から叩かれた。気配を探るが子供が一人いるだけだ。

 この時期のノーリアスは聖女や聖騎士、観光に来た王侯貴族で溢れかえっている。ノーリアス中の教会の宿坊はパンクし、民間の宿を借り上げて対応する有様だ。それを目当てにガキが悪戯をしに来る事も多い。

 というか転生者が持ち込んだハロウィンと混ざってパレードの前日(単純に前夜祭と言うとこの日を指す。まあイブみたいなもん)は仮装した子供がお菓子をねだりに来る祭日となっている。妙なものだけ残るんだもんなぁ……。

「ハイハイ。お菓子でも欲しいのかい坊っちゃん?」

「ニャルラトホテプの化身よ、お前の目的の女は死んでいる」

「は?」

 木枠から見下ろす子供は黄色の衣に青白い仮面――あえて表現するなら歪なクエスチョンマークを巴に置いたような模様の――を付けて唐突に俺の目的を看破し、そしてその女の死を告げた。

「まさかお前、ハスターか?」

 ハスターはクトゥルフ神話では風を司る、黄衣の王とも呼ばれる外なる神だ。その性格は比較的信者に優しいとかなんとか。旧神によってアルデバラン星に知性に至るまで封印されているはずだが、まあ人間程度の知性と理性は俺たち外なる神にとってないも同然なので簡単な意思疎通は取れる。

「ここまで近づいてなお分からないとは、随分と粗雑に作られたものだな」

 本来死に捨てられる予定だった俺はぐっと唇を噛みしめる。悔しいがハスターの言う通りなのだ。

「それで目的の化身の女の死も分からなかったわけじゃろう?」

 どう思ったのか知らないがハスターはカメラ役の女官が殺される一部始終を俺の脳みそに直接流し込んでくる。拷問されて死んだのか。色々とエグイ状況だな。

「ああ、そうだ。それがお前に何の関係があるハスター?」

「そうさな……、その女の化身のせいで明日、わしの信者が宗教改革が起こすぞ」

「なんだって?」

 子供の姿のハスターは少しだけ困ったように頷いた。

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