第3話洗脳
とにかく俺は本体の意のままに破滅するのも世界を破滅へ導くのも嫌だという結論に達した。この犯行込みで化身を異世界転生させた可能性は大いにあるがそれはそれ。好き好んでパッカーンと二つに割れたい奴はいないのである。
そしてメレアガンス・トーチの快気祝い、もとい聖女オロール歓迎会の席で俺はそいつに出遭った。
メレアガンスの従兄弟にあたる同い年のクリフォード・トーチが肌の色を除いてメレアガンスとそっくりだったのだ。双子か?兄弟か?と疑いたくなるくらい――実際父親のトーチ伯爵が弟の妻に手を出して出来たのがクリフォードなのでぶっちゃけ異母兄弟だが――瓜二つなのだ。
これはもう利用するしかないね!適当に洗脳してクリフォードと入れ替わり、ついでに聖女オロールを直に見たことに触発されて出家する!これでノーデンスの神殿へのフリーパスがそのうち手に入るってもんだ。
るんるん気分で俺は聖女オロールアゲに手を貸し、周りが油断しきったところで実行に踏み切った。ワーお姉ちゃんすごーいとかなんとか言ってればいいだけの簡単なお仕事でしたとも。
「改めまして感謝と祝福を聖女オロール。俺はクリフォード・トーチ、クリフォードって呼んでねオネーサン」
褐色の肌にブルネットの巻き毛、くりんとしたおめめをパッチリさせて洗脳する。周囲の人間はほぼ全て俺をクリフォードだと認識したわけだが
「僕が、僕がクリフォードだ!皆何を言っているんだ!」
本物のクリフォード・トーチにはクリフォード・トーチとしての記憶とメレアガンス・トーチの記憶が同時に存在することになる。ま、すぐにクリフォード・トーチの記憶は消すから問題ないけど、この能力の制限は痛い。
「何を言っているんだいメレアガンス」
「聖女様の御前でふざけるのはよしなさいメレアガンス」
「お父様!お母様!」
仲がぎくしゃくしているとはいえ親は親だ。普通の子供にとって両親にお前は別の家の子だと突き放されるのはさぞ恐ろしいことだろう。
まあその恐ろしいことをしているのは俺なんですがねー。
「メレアガンスはアイツだ!あ、アイツがおかしな事を言い始めたんだ!」
恐怖のあまり白い肌を青白くさせて叫ぶクリフォードに対して周囲の人間はやれやれといった雰囲気でまるで相手にしない。最後の仕上げといきますかね。
「何言ってるんだクリフォード・トーチは俺だよ、メレアガンス・トーチ」
喚くクリフォードに歩み寄り、頬を両手で包むようにして目を合わせる。それはまるで双子の天使が戯れるような光景だが実態はただの洗脳だ。
「僕は、メレアガンス・トーチ……」
「いい子だ。今日から、いや生まれてからずっとお前がメレアガンス・トーチなんだ」
洗脳終了っと。これでクリフォードは一生メレアガンスだ。精々ダメ親父に甘やかされて王妃に横恋慕して武力行使で誘拐するまで増長してくれや。
俺は出家する準備をしなくちゃな。クリフォードは不貞の子だからあっさり手放してくれるだろ。厄介払いできて皆幸せだろうな!
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