第97話たったそれだけの事で

「………こういう日常を幸せと呼ぶのでしょう」

「ん?どうした?」

「いえ、何もございませんわ」

「まぁ良いか。とりあえず手を繋ごうか?絶対に迷子になるなよ?」

「わ、分かっておりますわっ!!わたくしも子供ではございませんのでしっかりと手を繋ぎ付いて行って差し上げましてよっ!!」

「おう、その心意気があれば大丈夫だな。では点呼が終わり次第早速中へ入るか。そうだな、手始めにウニクロへ寄って、それから食品売り場に行って歓迎会でのレクリエーションでつまめるお菓子でも買っていくか」


いったい、旦那様の中ではわたくしは何歳に見えているのだろうか?と少しだけモヤっとすると共に何故か大人の異性に見られたいという欲求も現れる。


少し前から偶に現れ始めたこの『旦那様に大人の異性に見られたい』という欲求が何故出てくるのかという事は、その原因は分からないのだが、この感情はとても大事な感情だと本能で思えてくるので不思議である。


そして旦那様は『いーおーん』でする買い物の順番を立てると、わたくしへ手を差し伸べてくるではないか。


初めから手を繋いで『いーおーん』を見て回る事も、目の前に聳え立つ見た事も無い巨大建造物と駐車場に止められている『くるま』という馬車の多さから見てもこの建物内に一つの街の人口と同じ数の人数が訪れている事が窺えて来る為、わたくしが迷子にならない様に手を繋いで周りたいと旦那様が思うのも納得である為、別段今この場で手を握る事が不思議でも何でもない上に、なんなら今回が初めて旦那様と手を繋ぐ訳でも無いにも関わらず、何故かわたくしは極度の緊張に陥り、心臓はうるさいくらいに鼓動が早くなる。


「全く、子ども扱いされるのは嫌なのは分かるのだが、そうだな………」


違う。


そうではない。


旦那様と手を握りたいのだが、緊張で身体が動かないだけなのだ。


そう言えればどれだけ楽であるか。


そして、このままでは『子ども扱いして悪かった。手を繋ぐ以外の方法を考えようか』と、手を繋ぐ他の手段で迷子にならない為の防止柵を提示されてしまうかもしれない。


「え、えいっ!!ほ、ほら見て見なさいな。わたくしだって旦那様の手の三つや四つくらい繋げますわよっ!!」

「俺人間止めるつもり無いんだけど?」


そうおもうと恥ずかしいという感情よりも手を繋ぐ以外の方法に変わる方が嫌だと思い勢いそのままに旦那様の手を取る。


たった、それだけ。


旦那様と手を繋ぐ、たったそれだけの事であるのにわたくしの心は幸せで満たされて行くのであった。



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新たにカクヨムコン6を意識して【婚約委破棄された悪役令嬢、使い魔を召喚したら魔王様でした】を書き始めました。


何卒宜しくお願い致します(*'▽')

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