第67話恋したのだと
そう優しい声音で言うと旦那様は優しく私の頭を撫で始めるではないか。
何故かは知らないのですけれどもわたくしの心臓が持ちそうにありません。
まるで壊れたマジックアイテムの様にわたくしの心臓が極度の緊張により暴れ狂う。
しかし何故かそれと同時にどこか安心してしまう様な、そんな変な感覚すらある。
「ミ、ミヤーコは何処へ行かれているのですかっ?」
「お昼休憩と明日の準備の為に屋敷に一旦帰ってるぞ」
「そ、そうなのですか」
そしてわたくしは緊張を誤魔化す様にどうでも良い事を聞くのだが、旦那様はわたくしの問いかけに相変わらず優しい声音で答えてくれる。
しかし、だからと言って会話が続く訳でも無く、当然そこで会話が途切れると沈黙が訪れる。
どれほどそうしていただろうか?
旦那様はあれかずっとわたくしの頭を優しく撫でてくれいるので流石に始め程緊張するという事は無くなったのだが、何故かずっとこの緊張を味わっていたいと思える様な心地よい緊張感を感じ始めていた。
「頑張ったな」
「………………へ?」
そんな、徐々に心地よい空間になりつつある二人の間に、旦那様がポツリとわたくしの頭を撫でながら言葉を発っし、わたくしは思わず聞き返してしまう。
「頑張った。頑張ったよ。シャーリーは良く頑張った。偉い偉い。頑張った頑張った」
しかし旦那様はそんな困惑しているわたくしなどお構いなしになおも頭を撫でながら『頑張った』と優しく言ってくれるではないか。
その言葉に、優しい声音に、優しく撫でる手に、思わず泣きそうになってしまうのを寸前の所で何とか堪える。
「えっと、その……旦那様?」
「シャーリーは要らない子なんかじゃないし出来損ないなんかじゃない。ただの頑張り屋さんの女の子だという事を俺は知っているからな」
「だ、旦那様………。もっ、やめて下さい………これ以上は我慢できません」
「何でだ?今まで我慢して来たんだ。今まで頑張って来たんだ。今日この時くらいは我慢する必要も無いだろう」
「だ、旦那様っ!旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様っ!!わたくしはっ!わたくしはっ!!!」
もうダメだった。
一度決壊してしまったダムの様に今まで押し込めていた感情が怒涛の勢いで溢れ出し、気が付けば旦那様の胸にしがみつき赤子の様にわんわん泣いていた。
わたくしはわたくしが思っている以上に誰かに褒められたかった、わたくしという存在を認めて貰いたかったのかも知れない。
兎に角わたくしは涙が枯れるまで泣き続け、そんなわたくしを旦那様が子供をあやす様に優しく声をかけて頭と背中を撫でてくれた。
この時わたくしは旦那様に恋したのだと近い未来、後になって思い返した時そう思うのであった。
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