第66話わたくしの旦那様?
秋も終わりに近いと言えども、風が無く日に照らされれば程良く暖かい。
そしてこの丘から四ノ宮家を一望出来るのだが、こうして見るとやはりこの世のものとは思えぬ程美しく、自然に生えている様に見えても良く良く見れば丘の上から景色を楽しめる様に理路整然と整備されている事が、流石に二日目ともなると分かる。
燃える様な紅い葉をつける木、金色に輝く葉をつける木、暖かなオレンジ色の葉をつける木、寒さに負けず未だ青々とした葉をつける木、それらのグラデーションを生かしながらシノミヤ家の建物や池などを映えるように植えられ、手入れされている事が伺えて来る。
そう思える程に丘から見る景色は美しいと思えるし、実際にそうなのだろう。
耳をすませば鳥と秋の虫の音、空を見上げれば薄い雲に輝く太陽。
つい最近までのわたくしでは考えられない様な贅沢な時間を今過ごしているのだろう。
そして、気が付けば涙が一筋零れ落ちる。
静かな時間を過ごせば、気が付けばまるで胸に空いた風穴に肌寒い風が軽く吹くかの様な感覚がわたくしを遅うと、気が付けば泣いている。
あの日からそうである。
寝る時などは特に。
だからであろうか?最近何でもかんでも少し大袈裟に反応しようとしているわたくしがいる様な気がしないでもない。
「奥方様、膝枕をして差し上げますので、どうぞ私の膝をお使い下さいまし」
そんな時にこんな事を言われると思わず甘えたくなってしまうではないか。
卑怯だと、わたくしは思いつつもわたくしはミヤーコに膝枕をしてもらい、地べたに寝転ぶのであった。
◆
どうやらわたくしはいつに間にか眠っていたらしい。
夢か現実か分からないその狭間で目を閉じてその微睡みを味わっていると誰かがわたくしの頭を優しく撫でてくれる。
それはまるでお父様に撫でられている様で、わたくしがまだ幼かったあの幸せだったあの頃を思い出す。
あぁ、そう言えばわたくしは確かミヤーコに膝枕をして貰っていたのでしたわ。
流石にそろそろ起き上がらなければと思い薄らと目を開けると、そこには旦那様の顔があった。
「お、やっと起きたか」
「だ、旦那………様?」
「うむ、そうだな」
「ソウイチロウ様で、わたくしの旦那様?」
「ああ、そうだぞ」
「………………すすすすすすすすっ、すみませんっ!!直ぐに退きますわっ!!あうぅっ!?」
ミヤーコだと思っていた人が旦那様に代わっている事に気付き、わたくしは飛び起きようとするも旦那様に頭を押さえられてそのまま旦那様の膝へ戻されてしまう。
「良いからそのまま膝枕をされてろ。それにいちいち謝らなくてもいいから」
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