第65話目頭を揉みほぐしながら深いため息を吐く


「何で私がこんな目に………クソが。何とかして早い事カイザル殿下へ取り入らないと本当にこの馬鹿と一緒にシャーリーのところに行く羽目になってしまうわ。一体ここ王都から何日かかると思っているのよ。そもそも沈むと分かっていて泥船に乗る馬鹿はいないのよ。ネズミだって沈む船からは逃げるわ」




「アイリス?」

「ううん。何でもないっ!!ささ行きましょうっ!!」

「お、おう。そうだなっ!まずは馬車を見つけに行こうっ!!」





俺は手元に届いたラインハルト陛下の手紙を読み思わず目頭を揉みほぐしながら深いため息を吐く。


「これはこれは、もう馬鹿息子の方がまだましだと思わざるを得ませんね」


そしておれの肩越しにラインハルト陛下からの手紙を盗み見る異世界側の執事であるローゼン・グフタスも俺と同じ感想の様である。


しかしながらその立ち姿は美しく、他人が見ればまさか手紙を盗み見ているとは思えない程なのだから恐ろしい。


「王族が所有している馬車を無断で使用しようとし、王族が抱えている御者を強引に使おうとして拒否され、挙句自分で操縦しようとし止める衛兵達を振り切って御者席へ乗り込み馬が驚いてしまい暴れて馬車が大破。頭を冷やさせる為にも王族の避難用の地下室へぶち込んでいる────と。地下室へぶち込んでいると安心して良いのか、この無駄な行動力を警戒した方が良いのか」


兎に角、どちらにせよラインハルト陛下へ心の中でお疲れ様と労っておく。


「ローゼン、ラインハルト陛下へ何か甘い物を送ってやろうと思うから何か数点見繕って送ってやってくれ」

「かしこまりました、旦那様。チョコレートと………そうですね、金平糖でも送っておきましょうか」

「ああ、それで良いだろう。そうしてくれ。ありがとう」





朝ご飯に食べた『かっぷめん』の余韻を感じながらわたくしは昨日と同じくシノミヤ家の庭を散歩する。


違うのは側付きがルルゥではなくてミヤーコである所くらいである。


因みにルルゥにはわたくしに構わず明日の準備をしてくるようにと言ってあるので、それが終わり次第ミヤーコとわたくしの側仕えを交代する流れとなっている。


しかしながらよくよく観察してみれば昨日と違う個所がもう一つあり、それは会う使用人会う使用人全てが浮足立っている様に見えるのである。


かくいうわたくしも浮足立っている中の一人に入ってしまうのだが。


「つきましたよ、奥方様」

「登ってみると意外と高いですわね」


そんな事を思いながらわたくしは敷地内にある丘を登り、その頂上手入れされた芝生にミヤーコが敷物を敷いてくれてその上へと座る。


地べたに座るなど産まれて初めてではなかろうか?

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