第68話おにぎり

「どうだ?泣いたら幾分かはスッキリしただろ?」

「…………はい。あと、申し訳ございませんわ」

「こういう時は謝るんじゃなくてありがとうとでも言えばいいから」

「あ、ありがとうございまっ、あうあうっ」


あれから随分と長く感情のまま泣いていたような気がするのだが、その間旦那様はわたくしが泣き止むまで黙って待っていてくれていたみたいである。


その事に気付き思わず謝罪をしたのだが、謝る必要は無いと言ってくれ、感謝の言葉の方が良いという言葉にわたくしはすとんと共感できた為、改めて旦那様へ感謝の言葉を言おうとしたのだが、旦那様は少し乱暴にわたくしの頭を撫でてくる。


「好意の女性を慰める事ができたという嬉しさや自分の物にしたいという欲求を、乱暴に撫でて有耶無耶にしようとする旦那様なりの照れ隠しですよ、奥方様」

「そ、そうなのですか?ルルゥ、旦那様?」

「うるさいぞルルゥ。シャーリーもいちいち真に受けなくていい」


そんな旦那様を、昼休憩が終わったのか戻って来たルルゥが照れ隠しだと指摘し、旦那様の頬が少しだけ朱に染まった気がした。


旦那様の言う通りルルゥの戯言かもしれないし、わたくしの勘違いかもしれないのだが、そうだといいなと何故かそう思う自分がいた事に少しだけ驚いてしまうのだが、今はそんな事よりも旦那様の胸で泣いたという事の恥ずかしさが上回っており、それどころでは無かったりする。


「そんな照れなくてもいいですのに。それはそうとして奥方様、お腹が空いているかと思いましておにぎりを握って参りました」


ルルゥに言われてわたくしはお昼ご飯をまだ食べていないのだという事を思い出し、お腹が可愛らしく鳴ってしまう。


旦那様の胸で泣いたという事に加えわたくしのお腹の音を聞かれたという新たな恥ずかしさが加わってしまうのだが、お腹が空いているというのとおにぎりという食べ物への興味を利用して意識をそっち方面へ強引に切り替える。


そしてルルゥが蔦を編んで作った手提げ籠から透明のシートに包まれた真っ黒い塊を出して来るではないか。


「ま、まさかその黒い塊が『おにぎり』ですの?」

「はいそうですよ、奥方様。味はこちらから鮭、おかか、昆布です。私的にはシーチキンマヨや変わり種のスパムお握り等が好きなのですが初めて食されると思いますので始めはやはりスタンダードな種がいいかとこの三種類に致しました。かといって梅は流石に厳しいと思いまして外させていただきました」

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