第49話親の威を借る『馬鹿息子』ないし『ドラ息子』

 その表情が恐らく顔に出ていたのであろう。


 まるで子供の頭を撫でる様に優しく撫でると「ちゃんと使用人たち皆に配るんだぞ?」と旦那様が言ってくる。


 わたくしの思考を見透かされた事がたまらなく恥ずかしく、顔を真っ赤にして俯くのだが、旦那様はわたくしの事をいち異性ではなく子供としてみているのでは?という疑惑がわたくしの中で出来た瞬間でもあった。


「あ、当たり前ですわ………我慢の聞かない子供ではございませんので………」

「ああ、そうだな。 すまない」

「あうあうっ!?」


 しかしながらもうわたくしも十八歳となり、三年前に成人した身である為一応言い返してはみるのだが、今度は少し乱暴に頭を撫でられ、まるで背伸びしている子供の相手をしているかの様な声音で返事が返ってくる。


 本来であれば子ども扱いされて少しは腹が立つというものであるのだが、何故だか旦那様には子ども扱いされるのも、なんならそのまま子供の様に甘えてみるのもやぶさかではないなと思うのであった。





 今日一日使ってシャーリーを日本で住まわせる為にやるべきことは全て手をまわして来た所である。


 ルルゥからはシュバルツ元殿下による、ダグラスを使ったシャーリー暗殺計画を阻止できたという事を聞き安心するのだが、シュバルツ元殿下がいなくなった訳でもなく、そして不穏な動きをしているとの事であるのならばシャーリーは日本で暮らした方が安全であろう。


 話を聞く限りでは俺のシュバルツ元殿下の印象は、俺の恩人でもあり友と慕ってくれるラインハルト陛下には悪いのだが親の威を借る『馬鹿息子』ないし『ドラ息子』という印象である為道徳や常識といったものを期待するだけ無駄であろう。


 シャーリーの事をあまり調べもせず、家の事も貴族間の事も考える事すら出来ない者がシャーリーを暗殺しようと手駒であるダグラスを二度も動かしているという危険性はやはり考慮するべきだという考えに至る。


 問題があるとするのならばシャーリーの心情、ただでさえ婚約破棄をされた直後にたった一人で見知らぬ家に嫁がされ、その上異世界で暮らさせる事がどれ程のストレスとなるか分からないという点であろうか。


 実行するのならば早い方が良いのだが、シャーリーの心情を考えて止めるべきか、今夜使用人達の意見を参考にするか。


 そんな事を思いながらわざわざ俺の帰りを甲斐甲斐しくも出迎えてくれたシャーリーの表情は、昨日と今朝見た時よりも幾分明るくなってきている様に見える。

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