第48話鳥居

 その部屋は他の客室と比べてみても同じような造り、畳という床に白い壁、窓側にはカーテンの代わりに障子という引き戸、そしてちゃぶ台という背の低いテーブル。


 それらはここグラデリア王国では全てが物珍しい物ではあるのだが、珍しいだけでそれだけである。


 しかしながらその、他の客室と違い一か所だけ明らかに異なる物が置かれており、異様な雰囲気を醸し出していた。


 部屋の突き当りに堂々と立つそれは人一人が通れるほどの赤い門の様な物であった。


 様なと表現したのは見た事も無い形もさることながら門の向こう側の障子が見えているからである。


「この門の名前は鳥居という門であり本来であれば神々が住む神域と人間が住む俗界を繋ぐものでございますが、ここにある鳥居に関しましてはこの世界とあちらの世界を繋いでいる珍しい鳥居でございます」

「め、珍しいどころかこの世の何処を探しても見つからない一点物の様な気が致しますし、国庫を全使っても作れるような代物どころか譲り受けてくれる様な物でもない、とんでもなく貴重かつ価値がある門であると思うのですけれど────」

「只今戻った」

「え? ほ、ほんとに………転移門?」

「おかえりなさい旦那様。今日は奥方様も一緒にお出迎えですよ」


 そしてルルゥがこの鳥居という門の説明をしてくれ、それについて話しをしているその時、鳥居の中の景色がゆがみ始めたかと思った次の瞬間、旦那様が鳥居の向こうから現れたではないか。


「出迎えてくれてありがとう。 しかし次からは無理に出迎える必要などないし、強制もしない。 空いた時間は自分の為に出来るだけ使うと良い。俺も俺で、俺に気を使って出迎えているのでは? と気になってしまうからな」


 そして昨日来ていた袴という衣服ではなく、又もや見た事も無い衣服(スーツというらしい)を着てこの屋敷まで返って来た旦那様はわたくしの頭を優しく撫でながら、無理に出迎える必要は無いと言ってくれる。


「いえ、わたくしが旦那様を出迎えたくてルルゥと共にここへ来ました。 旦那様が気を使われる事等何もございませんわ」

「それなら良いが…………まぁ、面倒臭くなったら俺の事等お構いなしに出迎えを止めていいからな。 おお、そうだ。 実は今日向こう……日本の土産を買って来ているから使用人たちと分けて食べなさい」


 そんなわたくしに対して旦那様はなおも無理はするなと言って下さり、『にほん』で買って来たというお土産が入った紙袋をわたくしへ渡して来る。


 その瞬間わたくしの頭の中の割合が八割お土産の事になってしまったのは致し方ない事であろう。

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