第47話転移門

「奥方様………」

「そ、そんな表情をしないでくださいまし。 確かに、今なおふとした瞬間に思い出したり不安になったりは致しますし、幼い頃から身に付けた数々の事柄は無駄になってしまったかもしれないのだけれどもそれら全てが、わたくしがシノミヤ家に嫁ぐ為には必要な過程であったいう事なのでしょう。 もしかしたらシュバルツ殿下の婚約者として恥ずかしく無い様にと様々な事を身に付けて来なければわたくしは今シノミヤ家に嫁いでいないかもしれませんわ。 そう思えば寧ろ感謝しても良いくらいには思っておりますのよ?」

「………それもそうですね」


 わたくしの思いをルルゥは優しい微笑みで肯定してくれ、わたくし達は喋る事も、何をするでも無く二人で縁側に座りゆっくりと流れる時間の流れに身を置き、気が付けば空がオレンジ色に染まっていた。


「では、そろそろ旦那様がお帰りになられる時間ですので迎えに行きましょうか」

「わ、分かりましたわ」


 そしてルルゥの『旦那様が帰って来る』という言葉で思考の外側にあった意識を戻すと、ルルゥの後をついて行くのだが、ルルゥはこの屋敷の入り口ではなく裏側の方へと移動して行くではないか。


「ルルゥ?」

「あぁ、そうですね。まだ奥方様には言ってなかったのですけれども旦那様のお勤め先は基本的に日本と旦那様が経営しているここタリム領のどちらかとなるのですけれども本日旦那様のお勤め先は日本で御座います為屋敷の入り口ではなくて屋敷内にある日本へと繋がる部屋でのお出迎えします」

「え? 旦那様の故郷である『にほん』でお勤め………?『にほん』という場所がここグラデリア王国では無い別の国であるというのは分かってはおりますが、ここタリム領から国境を越えるだけでも一日は超えますし、周辺諸国に『にほん』という国が無い事もわたくしは存じているのですけれども、まだ旦那様がお勤めに行ってからまだ半日程しか経っておりませんわよ? まさか………っ!? いや、でもそんな物がこの世に存在するはずが………」

「そのまさか、で御座います奥方様。今から旦那様をお迎えに行く部屋には日本へと綱がっております転移門が存在しております」

「さ、流石に転移門などという御伽の国から出てきそうなえどもえふえぇぇぇええええっ!!!??」


 そしてわたくしは産まれてこの方記憶している中で一番大きな声で叫ぶのであった。





 わたくし達は旦那様を迎える為に転移門がある部屋へとルルゥと一緒に向かった。

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