第50話秋葉原は禁止

 そしてお土産を渡すと歳相応の反応を見せ、喜んでいる事が伝わって来る為思わず子供扱いしてしまう。


 しかし元気良く、子供扱いしないで欲しいと言い返して来るあたり出会った当初から考えれば表面上は大分マシになったと言えよう。


「では俺は夕食まで書斎で今日の仕事を纏めて来る。 ルルゥは俺と一緒に来てくれ」

「かしこまりました、旦那様」

「あうあうっ、も、もうっ! やめて下さいましっ!」


 そして俺はまるで留守番を言い渡された犬の様な表情をするシャーリーの頭を今一度クシャクシャと乱暴に撫でるとルルゥと一緒に書斎へと向かう。


「それで、今日一日見た感じどうだった?」


 そして書斎に入ると皮張りの椅子に深く座り机の上に置かれている書類に一枚一枚目を通してサインをしながらルルゥにシャーリーの事を聞く。


「そうですね………表面上は大分良くなって来たと思うのですけれども、急に泣いたり、かと思えば笑顔になっていたりと感情の起伏が激しく感じます。 恐らく親や婚約者に捨てられて今までの努力も無駄だったという現状を忘れようと振る舞い、ふとした瞬間に些細な事がきっかけで一気に思い出してしまうのでしょう」


 書斎に置かれたポットでお湯を沸かし初めていつもの様にコーヒーを入れる準備をしながらルルゥはシャーリーについて話す。


 その事から、強烈なストレスから守ろうと脳がストレスの原因を思い出さない様にしているのだが些細な事でフラッシュバックしてしまっているのだろう。


 いくらこの世界では成人していると言えど俺からすれば十八歳などまだまだ子供である。


 日本ならば殆どの者がまだ高校に通って青春を良くも悪くも謳歌している年頃なのだ。


 そんな年頃の娘がいきなり自分の周りにある全ての物が無くなってしまった衝撃は想像を絶する程のストレスを感じてしまうのも無理ないだろう。


 俺であっても十八歳の時にいきなりシャーリーと同じ状況に陥ってしまったらと思うと、シャーリーと同様に普通では居られなかったであろう。


「そうか………傷心旅行という言葉もあるくらいだ。 ならばいっそ嫌な事を忘れる程の体験をさせるという意味や旅行と捉えてリフレッシュも兼ねると考えれば日本へと連れて行くのも有りかもしれないな」

「そうですね、私もそれが良いかと思います」

「何なら使用人達全員で行くか。 多い方が賑やかで良いだろう」

「あ、なら私は───」

「秋葉原は禁止な」

「───秋葉原………っ!? 何故ですかっ!? 秋葉原が何をしたと言うのですかっ!?」

「いや、お前何時間も居座って戻ってこなくなるだろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る