しか勝たんはつまりマケンッ!

川谷パルテノン

 

 水見美波みみみなみは学校近くの神社の祠のその裏手、茂みから通ずる小高い丘の上に一本の剣が地面へ突き刺さっているのを発見した。好きになった男子へ告白を決意し人目を避けるべく祠裏手の小高い丘の上へと告白相手を呼び出した親友、火浦朱音かうらあかねを見守るべく付近の陰に隠れていた美波は偶然見つけた朱音の傍らに突き刺さった剣に対して「いや、それはおかしい」と呟いた。気になりすぎて親友の告白を見守るはずの使命感が揺らぎを見せ始める。後に伝えられる「友と剣のジレンマ」である。そこへ朱音の告白相手である風原爾志紀かぜはらにしきが現れて、美波は息を殺した。

 美波には距離的によく聞こえなかったが朱音は爾志紀に何かを告げた。実のところどうでもよくなっていた。朱音と爾志紀とその間に見える突き刺さった剣。美波は今、その剣を引っこ抜きたい気持ちでいっぱいだった。この時「見守っててね。絶対だよ」朱音からの願いがリフレイン。飛び出せば破談必死の状況に汗が顎を伝ってドモホルンをリンクルする。何故もこんなにあの剣は自分を魅了してくれる。美波は我欲を押し殺し再び二人に目をやった。どうも爾志紀は困り果てたような表情を浮かべ、朱音は不安げだ。よもやあのスカシ野郎、我が親友をフリもうしたか? ならばあの剣を引っこ抜き斬るしかないなそうだなと辻褄合わせのそんな言葉が彼方から響いてくる。ならん、ならんぞナランチャ・ギルガ! 美波は頭から邪念を振り払う。

コッチヲミロォ……

 寧ろそっちしか見ていなかったが剣がそのように囁くので美波は剣に焦点を当てざるを得ない。コッチヲミロォ……コッチコッチ。もう親友の大事どころではない美波の右足は茂みからチラチラと覗き始めていた。耐えろ、耐えるんだ美波。自ら言い聞かせてみても剣の声はさらに大きくなるばかり。そもそも二人はなぜもそんなに剣を無視できるのだ。朱音は恋と乙女心がそれを超越するとしても、爾志紀よお前は気付いているだろう。何故突っ込まない。いや引き抜かない。

 そこで美波はふと考えた。よもやあの剣が見えているのは自分だけなのではないかと。もしや自分は剣に選ばれし戦士ではないかと。郁男と弓子から生を受けたごく平凡な女子高生とは今までの認識。剣よお前はかつて自分と共に万国暗黒魔帝大戦の最中、邪獣を屠ったあの時の剣ではないか。美波の中で新たなる旧歴史が根付き始める。コッチヲミロォ……アッチモミロォ……要求がどんどんわがままになる剣の所為で美波は頭の中が整理できない。反動で下半身は完全に茂みの外へとはみ出していた。だから爾志紀が叫んだ。

「ちょっと待って! あれ死体!?」

 美波の両脚は脳内の疲弊に伴って露天風呂ばりにリラックスしてしまっていたため引っ込めることも為らず、脚にはすぐ気づくくせにどうして剣には着目しないんだと憤った。このままでは朱音の決意を台無しにしてしまう。美波はこんなこともあろうかと持参していた馬のマスクを装着し茂みを飛び出した。

「我が名はウマロース。青春を餌に生きるモンスター」

「なんだって!? 火浦さん! 隠れて!」

「待って! 風原くん、アレは」

「あ! いいところに剣!」

貴様きさん今更なにを……ソレハ……ワイのや!!!」 

 剣に飛びつこうとするウマロースよりも速く爾志紀は剣を引き抜いた。方向を変えることが出来ない美波は爾志紀のリーチ内に踏み入りカウンターブレイドを浴びせられる。迸る血飛沫。力を失った青春の怪人はその場に倒れた。

「美波ーーッ!!」 

 朱音の悲鳴に爾志紀も我に返り、怪人の元へ駆け寄った。

「あか、ね。私……わたし」

「もう喋らないで、美波ぃ……死なないでょ」

「二人、とも。おてての、しわとしわをあわせて」

「南ァ無ゥ、って美波ーーッ!」

「俺は、俺はなんてことを」


 水見美波……


 誰?


 聞こえるか水見美波


 誰?


 聞こえるな水見美波


 誰やねん!!


 私は剣です あの地に埋まり そしてあなたを斬った


 何てことしてくれてんねん!!


 落ち着きなさい水見美波 あなたはまだ死んではいません ただその命はトモシビフロントオブ微風 ですが一つ たった一つだけ生還する方法があります 


 それって


 宿るのです


 それはなんや


 私と この剣と同化するのです


 するとどうなる


 生還できます カタチは剣


 死なせてもらおう


 待ちなさい水見美波 史上初の剣型女子高生 よくなくなくない?


 地獄はどっちだ


 わかりました あなたの願いを叶えます 幸あらん


 美波の意識は光に包まれ遠のいた。これが死か。呆気ないものだな。そう思った。そして見覚えのある景色が戻った。視線は莫迦に低かったが、美波はそれを知っていた。そして見覚えのある女子と見覚えのある男子が泣いていた。二人の傍らには見覚えのある自分が横たわっていた。死の俯瞰。ところが一抹の不安に駆られる。見覚えのあるアレが足りない。


 や、やりやがったなーーーーッ!!!


 見覚えのある自分がムクッと起き上がる。


「「え?」」

 驚嘆のシンクロニシティ。感動の美波復活。ちがう、ちがうんや朱音! 気付けボンクラ原!

「あっぶねえ! 生きたわ。生きたしか勝たんわ。朱音。風原。ただいま」

「美波ぃぃぃぃあああああ」

「よかった、よかった」

 よくねえから!

「へえ、コレか。粗末な剣でよかった。切れ味サイテーで」

 お前どんな気分でぬかしとるんじゃワレィ!

「あのさ、アタシんちってどっちだっけ?」

「え、美波のおウチってこと」

「頭を強く打ったのかもしれない。先ずは病院へ」

「こんガキゃ黙り腐らせボゲガッ! 家はどっちや聞いておる!」

「わかった。送るよ私が。風原くん、今日はゴメンね。また……明日」

「火浦さん、あの、そのさっきの……俺なんかでよければ」

おま何、この機に乗じて吊り橋効果テキメンしとんねん!? 私で私をもっかい斬れ!

「おっと、アタシはオジャマかな。そうだ。記念にこの剣もらってもいい? 二人のキューピッド剣」

 クソダサネーム自分どんな気分ほんま

「じゃあねお二人さん! しゃーわせなりなよ!」

「帰り道! わかる?」

「アタシは前しか向いてないよッ。グダフタヌーン」


 おい

「何かしら」

 どういうつもりや

「何が?」

 殺したろか

「どうやって? もうあなたは物質。自由意志では動けない。私が三千年以上味わった苦痛。今度はあなたの番」

 マジで殺す

「はあ? せいぜい無い足で足掻きなさい。じゃあね美波ちゃん。アバ○ストラーーーーッシュ!」

 水見美波だった剣は山道の脇に盛大に投げ捨てられた。遠心力の赴くままに飛ぶ美波は誓った。自分を、必ず、殺すと。美波はストンと突き刺さる。見事、イノシシに。するとどうだ、イノシシの取説があるとすればそれは瞬時に美波にインストールされた。わかる、わかるぞ! 美波はイノシシを完全に理解した。そこで閃いた。この調子で憑依を繰り返せばいつか自らの肉体に辿り着けるのではないかと。イノシシの次は熊、熊の次はトロール→バーサーカー→暗黒騎士。無欠ワラシべ理論。始まった。圧倒的開始。水見美波、これより復讐の鬼と化す!


 どうも剣です。いやー雨の日とかは大変でしたね。錆びついちゃわないって気が変になりそうでしたよ。まあ何はともあれ華の十七歳! 学校生活楽しむぞッてね。それでは次回予告「この辺の山にクマはいない!」シーユーネクスターイッ!

 

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