第22話 新見錦の切腹
手始めに始末されることになった新見錦への作戦決行は九月七日となった。
この日、新見は一人で
新見はずっと芹沢と
「あの新見を始末出来るのならば」
と、簡単にこの話に乗ってくれたという。
「なんか、それはそれで凄い話ですよね」
新見の後ろを歩きながら、俺は溜め息を吐いてしまう。日頃の行いがいかに大事かが解る話だなと思ってしまった。
「因果応報だな」
それはこの件を仕掛けた斎藤も思っているようで、同じく溜め息を吐いている。
この日、二人で新見を尾行しているのはもちろん、無事に作戦が遂行されたか見届けるためだ。
やがて、新見が山緒に入って行った。そこからしばらくは遊ばせておいて、油断しきっているところに水戸藩士たちが乗り込むことになっている。俺たちはその向かいにある店に入り、番頭に金を握らせて二階の部屋を借りる。
「祇園に来て遊べないのは堅苦しいが」
「斎藤さん。遊ぶんですか?」
山緒を見つめながらぽつりと呟くので、俺は思わず訊ねてしまう。
「一応は。そういう沖田は、女遊びに興味がないようだな」
しかし、斎藤からそう切り替えされ、俺は苦笑いを浮かべることしか出来ない。
遊びたい気持ちは十分にありますよ。でも、沖田総司が遊女にうつつを抜かすって、現代のイメージに合っていないし。それに、俺としてもあんまり恋愛以外でそういうのは、という気分だし。なにより中身は現代人なので、江戸時代の男子に比べたら草食なんですよ。
「ふむ。興味がないわけじゃないのか」
そんな曖昧な顔を浮かべる俺に、斎藤はなるほどねえという顔だ。
「そ、それはまあ。でもねえ。わざわざ高いお金を払って、ごほんっ」
突っ込んで聞かないでくれ。俺はまずいまずいと話題を切り上げて山緒に目を向けた。と、にわかに騒がしくなってきた。
「なっ、貴様ら」
「お前の数々の悪行はすでに藩主様も知るところ。ここは武士らしく切腹せよ」
そんな声が、向かいの建物にいても聞こえてくる。新見の部屋の障子が開いているからだ。
「首を刎ねられる屈辱を受けたいのならば、それでいいが」
取り囲んでいた一人が抜刀するのが見える。周囲にいた遊女ったいがキャーと悲鳴を上げて逃げていく。
「そ、それは」
新見はおろおろとしているが、いきなり死ねと言われて死ねるはずもない。だが、体面を気にする根っからの武士でもある。罪人のように首を刎ねられて死ぬことは避けたいのも事実だ。
「ここに藩主様直々の沙汰もあるぞ」
正面にいた男が、そう言って懐から封書を取り出した。それが偽物なのは明確だが、新見には判断できない。
「お、俺は」
「いいのか。ここでお前が水戸で何をしてきたのか。大声で吹聴して回ってもいいのだぞ。その名に傷を残して逝きたいのならばそれでもいいが、しばらくは都中の笑いものであろうぞ」
死した後にも屈辱が待っているぞ。そう脅されて、新見はへなへなとその場に座り込んだ。彼らとは顔見知りであり、何をしてきたか
そこからはもう、取り囲んだ水戸藩士にされるがままだった。
「っつ」
切腹の瞬間、俺は目を逸らしてしまった。しかし、残された首を落とされた死体を目にしてしまい、顔が青ざめる。
それほど接点があったわけではない。でも、中山道からこの日まで、近くにいた人が死んだ。それがショックだった。
「少し休んでから戻れ。俺が始末を付けておく」
真っ青な顔になった俺に、斎藤はそう気遣ってくれた。だが、ここで動かなかったら屯所に戻れなくなりそうで、俺は無理に立ち上がった。
「大丈夫です」
これから、多くの人がああやって命を落とすのだ。その中には、親切にしてくれる山南敬助だって含まれている。沖田総司として生きている以上、ここでへこたれるわけにはいかなかった。
「行きましょう。次は本命ですしね」
俺は斎藤の目をしっかり見つめると
「そのとおりだ」
斎藤は力強く頷いてくれた。
新見は水戸藩士たちに詰め寄られて死んだ。これは多くの目撃証言もあり、さらに本人も切腹していることから、芹沢に警戒されることはなかった。多少不機嫌だったが、新見がいなくても問題ないと思っているのだろう。
「芹沢への決行は十八日に決まった。政変から一ヶ月、慰労会を開くのに丁度いいからな。会津藩が島原の
新見切腹から三日後。ついに決行の日が決まったと近藤から報せがあった。この時には試衛館のメンバーが全員揃い、その日は羽目を外しすぎないようにとの注意が付け加えられる。
「芹沢さんも年貢の納め時かあ」
この間から何があるのかと知りたがっていた藤堂がしみじみ呟く。まさか暗殺の算段が組まれているとは思っていなかったようだ。
「芹沢の場合は切腹を迫っても素直にやるとは思えないもんな」
原田は暗殺となったのは仕方ねえと腕を組む。
「同時に平山、平間両名も片付ける。そのつもりでいてくれ」
土方がそう付け加え、こうしてあとは暗殺の日を待つだけとなったのだった。
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