第3話 決心


 はじめて俺となごみが出会ってから17年。

これまでの2人の経緯はこんな感じだ。


 お互い想いを伝える勇気もなく、微妙な関係性に

落ち着いてしまっている。


 それでもどこか、なごみに対する気持ちを

閉じ込め、フワフワしたままの自分がいる。

 みんなで会う時も、ふとした時に笑いかけながら

俺を見つめるなごみに、ときめいてしまう。


 つい先日、何年かぶりになごみと俺と子供達だけで出かけたことがあった。

 ひさしぶりにカラオケにも行くことになっていて、俺もなごみもすごく楽しみにしていたんだ。


 実は、俺となごみは歌が好きで昔は2人だけで

カラオケに行ったりもしていた。

 俺の妻も、なごみの夫もあまりカラオケ好きでは

ないから今回のカラオケは歌い放題だぜ!なんて、

すごくワクワクしながら待ち合わせた。


 午前中は、俺たちのカラオケに気分良く

付き合ってもらうために、ゲームセンターで

子供達を遊ばせた。

 俺となごみと子供達。

 こんな時間を過ごしていると、なごみと結婚して

いたら、、、などとついつい考えてしまう。

 “なごみと俺の家族を、思い描いてしまう”

そんな事を考えていても、悲しくなるだけなんだが。


 昼食には子供達の希望でファストフードの店に行き、ハンバーガーを食べた後、午後からカラオケに向かった。

 ハンバーガーは俺もなごみも好物なんだ^ ^;

 ここは田舎だし、これと言って子供達が喜ぶ

ファミレスも少ない。


 2人で好きなだけ歌うカラオケは楽しかった。

 なんの縛りもなかった、学生の頃を思い出す。

 ふと、悪ふざけで俺はこんなことを言ってみた。

 「今からなごみのためにこの歌を歌います!

  聞いてください( ̄^ ̄)ゞ!!」

 クスクスと笑いながら俺を見つめるなごみ。

 実は俺、新卒の頃に知り合いのライブハウスで

歌を歌わせてもらった時に、レコード会社から

スカウトを受けた事がある。

 再会した時にすぐなごみに自慢した話だ。

 歌には自信があるほうなんだ。

 「きゃー!頑張ってーたもつー^ - ^!!」

 こんなノリもいつものなごみだ。

 俺はスカウトを受けた時の得意曲を歌った。

隕石を止めるあの映画の主題歌で、実は結構な

ラブソングだ。

 「〜♪」

 「〜♪」

 「〜♪(なごみ??)」

 楽しくて歌に没頭し過ぎてわからなかったが

歌い終わる頃に気が付いた。

 なごみがポロポロ泣いている。

 「どしたどした?汗

  感動しちゃった??^ ^;」

 茶化して聴いてみると、なごみはふるふると

首を横に振る。

 「カラオケが楽しみで、たもつがいつも歌う

  この歌も昨日聴いてたんだけどね。

  日本語の訳を初めて調べてみたんだ。

  歌詞の意味がわかってから、たもつの歌聴いて

  たらさ、しかもたもつが私の為に歌うとか

  言うから、、、」

 その後の言葉を口にできないなごみ。

 変な形で想いを伝えてしまったみたいだ。

 「、、、。

  実は歌詞の意味がわかってないと思って、

  いつもカラオケの時にこっそりなごみに

  向けてこの歌を歌ってた、りしてたん

  だけど、、、」

 お互いの家族のことを考えたりして、何を言ったらいいのかもわからない。

 「私だってずっとたもつのこと、、、」

 今のなごみの夫はイイヤツだと思うし、

なごみも俺の妻のことを良く思ってくれている。

 そんな事が頭によぎってしまうと、

 結局2人とも何も言えなくなっていた。

 ふと部屋の中にある、仕切りで区切られた

キッズルームから、俺たちの空気を不審に

感じたのか子供達が出てきてしまった。

 すぐに俺たちは平静を装って子供達に悟られない

ように、いつもの雰囲気を作っていた。


 結局この後子供達の前で、今まで通りに、

何もなかったかのように過ごして解散した。




 ...このことがあって俺はなごみの気持ちを

確信してしまった。


 なごみも俺と同じ気持ちだった。

 学生時代のあの頃もそうだ。

 だってあの頃も現在も、俺のそばにいる時の

なごみは何も変わらない。


 あの頃2人で一緒にいた時のなごみの眼は、

今も俺を見つめるその眼と同じだ。

 昨日のカラオケで見せた涙は、18歳のあの時に

見せた涙と同じだった。


 俺はあることを思い立った。

 今の家族には申し訳ないが、こうしないと

いてもたってもいられない。

 正しいと思う方向に今を変えるしかない。


 俺は以前に完成させたあの発明を使うこと

にした。

 社会人なりたての頃に作ったタイムマシンだ。

 これで俺の今の意識だけを、14年前、18歳の

あの頃の俺の身体に戻す。

 あの時のなごみをちゃんと引き留めて本当の気持ちを伝えるんだ。

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