第12話 つながり
「最近、放課後何してんの?部活全然出てないでしょ?」
ついに美香が訝しんで聞いてきてしまった。アルバイトのことは学校に知られる訳にはいかないが、親友の美香に知られても別に困ったことにはならない。
でも私は結局、美香にアルバイトのことを話すことはなかった。ことさら"秘密にしている”という意識はなかったけど、どこか私と維澄さんの関係に、誰も……それは美香であったも極力入ってきてほしくない、おそらくそんな心理が働いていたのだろうと思う。
だからこの時も咄嗟に誤魔してしまった。
「もともと私の部活なんてあってないようなものだし、もう出る意味ないかなって」
美香は、”するどい娘”なので私が嘘をついても直ぐにバレる。でも美香は時に”知ってるのに"騙されたふりをしてくれる。今回も、おそらく”いぶかしむ”美香の顔色を見れば、やっぱり私の話が嘘だと気付いてる。
「それは前からでしょ? なんで急に?前はよく一緒に帰ってたじゃない?」
美香にしては”珍しく”意地悪く突っ込んできた。確かにその通りだ。かつては家に帰ってもやることがない私は適当に時間つぶしに本を読んで美香と帰ることもよくあった。
今はそれを全くしなくなっている。美香はその事を突っ込んで来たのだ。さすがに、維澄さんに会ってからと言うもの、美香には嘘をつき過ぎていて私に不満が募っているかもしれない。
「ほら、だって日も短いじゃない?だから最近は特に早く帰ろうかなって」
私も心苦しいが、今回も嘘を貫き通してしまった。
「ああ~そうだよね?弟君も大変だもんねお迎え」
美香も諦めたのかようやく私の"嘘”に話を合わせてくれた。そう、美香はいつのものように少し寂しそうに苦笑いをしつつ話題を変えてくれた。
でもこんな風に私の放課後の行動を気にして聞いてくる相手は美香ぐらいしかいない。そんな唯一の友だちにもこんな薄情な事をしてしまう自分を思うと、自分の醜さが嫌になる。
私は目つきが悪いく髪も金髪に見えるほどに薄いので真面目な子たちは最初、眼を合わせてもくれない。その”無視される”風景に晒され続けて自分からも人を遠ざけるポジションをとる様になってしまった。
私も他人に関心がないから相手の会話に無理に入っていくことはしない。どうやっても、私の周りにには人がいなくなってしまう。そんな私に美香はこんなことを言ってくれた。
「檸檬はさ、絶対損してるんだよ?別にクールでもなんでもないのになんか近寄りがたいオーラ出してるんだよね?それに、結構、お姉さんキャラで世話焼きだし、憧れのアイドルに夢中になるなんて子供っぽいところもあるし」
「アイドルじゃないよ、モデル」
「別にそこはどうでもいいんだけど。そう、そんなことですぐムキになるところとか」
「それはムキになるよ。そこだけはね、絶対!」
「あはは。いつもそういう表情してれば、もっと皆話しやすいと思うんだけどなあ~」
やっぱり美香は優しい。なんで美香はこんな私にまで優しく接してくれるんだろう?
「いいのよ。私は大勢と上手くやるなんて器用なことできないから、学校では美香がいればいいかな」
「な、なによ急に」
「あれ?嬉しかった?赤くなっちゃって……フフフ」
「フン!」
その時の美香は珍しく結構本気でむくれてしまった。
ほんといい娘なんだ、美香は。私が男子だったら絶対惚れてる自信あるな。
ん?そうか私ったら男子でないのに維澄さんのこと好きなんだっけ。そんなちぐはぐな想像をしていることに私は苦笑した。
…… …… ……
私は平日はほぼ毎日、アルバイトのシフトを入れている。もちろんお金が欲しいわけではない。ただ維澄さんに会ういう不純な動機。
不純かしら?別にいいわよね。誰にも迷惑かけていないし。いや維澄さんはちょっと私の図々しさに困っているのかな?
でもこの日、出勤して見るとめずらしく維澄さんの姿が見当たらない。
レジには店長が入ってる。そこは維澄さん定位置なのに、またこの人にイラっとしてしまった。
今回は別に店長が悪い訳ではないんだけど……
「やあ、神沼さん助かった。午後、碧原さんが休みの日は大変なんだよ」
大変ってあなたがしっかり仕事すればいいんだけのはなしでしょ?
でもそうか、やっぱり今日は維澄さん休みか。いきなりテンション下がるな。どうしたんだろう?具合でも悪いのか?
「店長、維澄さんどうしたんですか?」
ちょっと心配になったから聞いてみた。
「いやいや、違うよ。毎月中頃は決まって休む日があるんだよ」
「毎月?中頃って……」
なんでだろう?
私が訝しんでいると、店長は続けてた。
「俺も前に聞いたことあっけど、ほら碧原さんて”自分のこと聞いてくれるな”オーラだしてるじゃない?だからあまり深くは聞けなくってさ」
へえ~無遠慮な店長だと思ってたけど、店長をしても維澄さんのプライベートは聞き難いと感じるんだ。
「でも、気になるなら聞いてみれば?神沼さんなら話してくれるんじゃない?」
「え?何でですか?」
「いやだって仲いいでしょ、二人」
ナニ言ってんのこの人?またそんなこと。それ聞いて嬉しくなる自分が単純過ぎて、なんか腹立たしい。
「そんなことないと思いますけど?私にもあまりプライベートのこと話したがらないから」
「そうなの?いや、碧原さん、君が来てずいぶん表情柔らかくなったと思ってさ。少なくとも碧原さんは君の事好きだと思うけど?」
バカじゃないの!?
なに"君のこと好き”とか言っちゃってんの?
この人ときたら、ホンっとに!!なんて無遠慮なんだよ!
分ってるけどさ。そんな仕事のパートナーとして、同性で気のおける近しい存在という意味で”好き”なんて言ってるのは。でもその言葉でどれだけ私が動揺して、思わず口元がニヤけてしまっているか少しは分かってほしいわよ!
「あはは、神沼さん嬉そうだね?やっぱ同性からみても碧原さんてちょっと憧れたりするの?」
この人のこの空気を読まない感じはホントに頭来るけど、まださっきの話の影響が抜けずに顔のににやけがとれない。
しかもなんなの?同性でもって異性なら誰でも彼女にか魅かれる前提の話?
「見た目は綺麗ですよね。でもちょっと子供っぽくて憧れるというよりは、逆に護ってあげたくなるみたいな?」
「うわ~!凄いね神沼さん。碧原さんにそんなこと言えるのは君だけだな。結構みんな近寄れなくてオドオドしてるのに」
やっぱり私は図々しすぎたのだろうか?いや、そんなことないでしょ?みんな見た目で判断しすぎ。
そうか。でもそう言われてみれば、学校での私は維澄さんと同じようなものかもしれないな。
だったら”ここ”では私が維澄さんにとって”美香”のポジションをやってあげればいいのかも!!
それに考えて見れば、私は学校では美香以外にあまりコミュニケーションを取ることがでいてないのに維澄さんとは結構楽に話が出来ている。
もしかしして相性いいとか?そんな希望的観測をしてみたが、それはちょっと妄想が捗りすぎたな。
二人で一緒にいる時間が長ければ、否応なしにそうなるよね。それだけだよね。分ってるわよ。
「Lineでもしてみたら?」
「え?」
そんな維澄さんのLineなんてまだ、登録してないよ。
「あれ?登録してるんでしょ?維澄さんのLine」
「え!?まさか店長は知ってるんですか?」
「いや、俺は携帯番号以外は知らないからさ」
「携帯番号は知ってるんですか?」
「それは立場上必要でしょう?緊急連絡先は知っておかないとね。彼女自宅に固定電話ないらしいから。最近はそう言う人増えてるでしょ?」
それは確かにそうだ。アルバイトとはいえ連絡先を明示しておくべきだよね。そいういえば私も誓約書に書いてたっけ。
維澄さんとの個人的な繋がりか……。それは、全く考えにも及ばなかった。
無意識にプライベートには踏み込んではいけないと言う防衛線を私の方から過度にはってしまっていたのもかもしれないな。
職場の先輩、後輩という間柄なら別にLineぐらい交換してもいいよね?
だってお互い仕事のシフトとか相談するなんてこともあるじゃない?
まあ店長の無遠慮さには色々頭来たけど、ただ渡辺店長の感想は至って素直なものだろうから維澄さんが私にいい印象を持っているというのは、少なくとも私より維澄さんと長く仕事場にいる人の意見としては説得力がある。
まあ、今日の店長は”グッジョブ”としておいてあげよう。
次の目標は維澄さんとの個人的な繋がり。
今度、絶対、絶対……維澄さんのLineをゲットしやろう!
私はそう心に誓った顔は、まだまだ……気持ち悪いほどにニヤついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます