子犬

 青空にわたあめをちぎったような雲が浮かんでいる。鳥のさえずりや車の音、犬の吠える声。休日の朝はどことなくのんびりしている。

 息を吐くと、白く煙った。

 目に入ったコンビニで、メンソールのたばこを買う。包装を開けているところでスマホが震えだした。

 発信源は千香だ。

「もしもし、千香?」

『真奈美……ごめんなさい』

「……どうしたの?」

 電話の向こうの千香は、普段のような勢いは全くなかった。

『やっぱり、真奈美がいないと淋しいってわかって……。朝起きて、おはようを誰にも言えないし……テレビのニュースに驚いても、笑ってくれる人がいない……』

 鼻をすする音が聞こえる。

 千香は静かに泣く。普段とても明るいが、泣くときは本当に静かなのだ。小さな体を自分で抱えて、震えながら涙する。

『私、他にいても、我慢するから……帰ってきて、お願い、真奈美』

 子犬のような声に、庇護欲が掻き立てられる。千香は可愛い。出会った頃から変わらない。

「わかった。今から帰るね」

 たばこをポケットに詰め、近くの駅から最寄り駅に向かう。見慣れた景色を通り過ぎ、千香と真奈美の家に辿り着いた。

「真奈美!」

 マンションの前で千香が待っていて、姿を認めた瞬間駆け寄ってくる。真奈美の手に昨日置いたままだった鍵を渡し、その勢いのまま抱き着く。

 甘い香りと、栗色の髪の毛。たった一晩だったが、随分久々に感じる。

「真奈美、ごめん。ごめんね……」

「ううん。あたしこそ、ごめん」

「いいの。真奈美のこと大好きだから……」

「うん。あたしも、千香が一番好きだよ」

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