今日だけ

 家の正面にタクシーが停まる。手早く支払いを済ませ、車から降りた。笹本からの確認を兼ねた『おやすみなさい』というメールに返信をし、その履歴を残らず消す。

 寒空の下、息を一つ吐く。白が消えるスピードは、先程ラブホテルで見たそれより短い。

「寒いな」

 マンションのエントランスに踏み入れた。エレベーターを使わずに部屋までたどり着き、ドアを開ける。

「おかえり」

「千香、ただいま。待っていてくれたんだ」

「うん。どうだった?」

「久々に会う人がいっぱいでつい話し込んじゃった」

 千香の満面の笑みが視界に広がる。ドアを後ろ手に閉め、華奢な体を抱きしめた。花のような甘い香り。いつもの香りだ。

「真奈美」

「んー?」

「……奥さん、綺麗だった?」

「うん、とっても綺麗な人だったわ」

 千香の顎に指をかけ、無理やり視線を合わせる。その目にしっかり見えるよう、にやりと口角を上げた。目を丸くする千香。

「もう! 酷い!」

 すぐさま弱い力で殴り始めるので、かわしながら部屋に入る。上着もパーティードレスも途中の洗濯かごに放り入れる。

「いっぱい甘やかしてあげるから、許して」

 廊下の先で振り向く。下着姿の真奈美を見て、千香は苦笑した。小さく頬を染め、真奈美に近寄ってくる。

「今日だけ、だよ」

「はーい」

 千香のパジャマのボタンを外しながら、二人で寝室に入った。

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