あの日

 店内は様々な声で満ちていた。隣の席の酔っぱらいの大声や、同じ席の知らない同期や先輩の笑い声。

「法学部! いいじゃーん!」

 今日はサークルの新入生歓迎会だった。新入生を盛り上げようと、先輩が大きな反応をする。先程全員の自己紹介を聞いたはずだが、もう忘れてしまった。

 真奈美は端の席で、一人ウーロン茶のグラスを抱えていた。

「法学部だったら先輩いっぱいいるし色々聞けるよ」

「そうなんですか! 嬉しい」

 愛想のいい新入生と、元々の友人、そして会話を回している先輩が楽しそうに笑う。

「松本さんは何学部なんですか?」

 新入生は順応力高く、先輩に話題を振り返す。

 こういう新入生がいたらやりやすいのだろうと心の端で思った。

「よいせ」

「え」

 急に隣に人が座り、思わず声を出してしまう。

「席飽きたから移動してきちゃった。俺は二年の古川翔太。君は?」

 その眩しい笑顔に、真奈美の瞳は釘付けになった。


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