似た者同士
焦げ茶色に染めた髪の毛に、右目の下の泣きぼくろ。整った顔立ちに朗らかな笑みを張り付けている。
「……こんばんは」
「警戒心剥き出しにしないでくださいよ。せっかくの晴れの日なのに」
「何か御用でも?」
男は思わずといった様子で笑う。そして薄い唇を開く。
「いや、淋しそうだなぁと思って声をかけてみただけです」
「晴れの日にナンパはあまりよくないのでは」
「ひどいなぁ。新郎さんのお知り合いなんですか」
口では哀しみを垂れつつ、男は全く怯まない。重ねて問うてくるその表情は、最初に話しかけてきた時から変化はなかった。
目を逸らし、シャンパンを一口含む。
「新婦さんとは長い付き合いなんですか?」
「えー質問に質問で返さないでくださいよ」
男はあくまでにこやかに返す。真奈美が何も返答しないのを見て、再び口を開いた。
「中高一緒だったんですよね。大学は別で、連絡はちょくちょく取ってた感じです。そちらは?」
グラスを揺らす。しょわしょわと泡が立っては消えていく。
「大学が一緒だっただけです」
「なるほど! じゃあ同じなのは状況だけなんですね」
「……は?」
思わず男の顔を見る。男はゆっくり目を細める。泣きぼくろがどこか妖艶な雰囲気を醸し出す。
「まだ好きなんですよね。新郎さんのこと」
眉根を寄せる。前髪に隠れて見えないだろうが、男はすべて理解したかのように微笑んだ。
この男は笑顔をいくつ使い分けることができるのか。
「こっそり抜けませんか」
ぼんやり思考した脳に、そんな声が降ってくる。声も、ましてや見た目も古川とは似ても似つかない。それくらいがちょうどいいのかもしれない。
「名前は?」
「笹本明と言います」
笹本は胡散臭い笑みを見せた。
「あたしは宮部真奈美」
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