第3話

 水が綺麗なところ。そしてAD300年以外の時代。

 その二つの条件に当て嵌まる場所に、アルドは心当たりがあった。

 やってきたのは古代。水の都アクトゥールだ。



「とりあえず誰かに聞いてみるしかないよな」



 アルドは小舟へ荷物の積み下ろしをしている男性に声を掛けた。


「なあ、ちょっといいかな…。今、人を探してて…女性なんだけど…」


「人探し?その人の特徴は?」


「あ…いやー…(どうしよう…手掛かりが無さすぎて聞き込みのしようがない…)えっと…ちょっと悩んでる風の、不思議な雰囲気の人…らしいんだけど…?」


「うーん…その情報だけじゃなんとも…」


「…だよな…」


 圧倒的な情報量の少なさに、アルド自身も思わず項垂れる。



「でもさっき、あんたと似たようなことを聞いて回ってる人がいたな。もしかしてあんたの連れかい?」


「似たようなこと?いや、違うと思うけど…」


「人探しなら酒場に行くのがいいって教えてやったから、まだその辺りにいるんじゃねえか?その尋ね人が同じ人だったら、他にも何かわかるかもしれないぜ」







 男性の言葉を頼りに、アルドはアクトゥールを南に向かった。


 酒場の建物が見える位置まで近づいたところで、中年頃の女性が道ゆく人に何か声をかけているのが見えた。



「あんたが人探しをしてるっていう人?」


 アルドはその女性に話しかけた。肩を落とす女性の姿を見れば、捜索が難航しているであろうことは容易に想像がついた。


「ああ、女の子を探しているんだ。20代くらいでちょっと変わった雰囲気の子なんだけど、突然いなくなっちまってねえ。…それ以上のことは私も言えないもんで、なかなか手がかりが掴めなくて…」


「おばさんとオレが探してる人、もしかしたら同じ人物かなと思って。…良かったら詳しいことを教えてくれないか?」


 女性は頷き、不安そうな面持ちで話し始めた。


「あの子とは数日一緒に過ごしただけの間で、実は名前も素性も何も知らないんだ。でも、なんだか放っておけなくてさ。最初にあの子にあったときは、何というか、思い詰めてるように見えたから」


「思い詰めてるって…?」


「ひどくぼーっとしてて…虚ろな目でティレン湖道の道の端っこに立ってたから、その、てっきり身投げでもする気なのかと思ってね…。まあそれは私の勘違いだったんだけどさ」


「身投げって!まあ、でも何事もなくて良かったな…」


「その後も心配だったから一時的にうちに置いてたんだけど、その間も一切何も飲まず食わずだし…。あれやこれや食べ物を勧めても首を横に振るばっかりでさ」


「そんな様子で急にいなくなったりしたら、そりゃ心配にもなるよな…」


「最初に会った時は、見たことのない不思議な格好をしていたんだけど、それじゃあんまりにも目立つからね…。私が昔着てた服をあげたのさ。…でもその服もそっくりそのままの状態で置いていっちまって…。あの子が何か悪いことになっていないといいんだけど…」



「ちょっと待って…不思議な格好?」


 アルドはたまたま近くを歩いていた女性を差して訪ねた。


「その人に初めて会った時に着てた服って、この時代の…あの女の人が来てるような、普通の服じゃないのか?」


 

「ここら辺では見ない服だったね…本人は『自分は遠い未来から来た』って言ってたんだけど、そんな妄想に取り憑かれちまうなんて、よっぽどのことがあったんだろうね…気の毒に…」


「未来から?!」


「ねえおばさん、その女性ひと、本当に未来からきたって言ってたのか?」


「ああ、確かに言っていたよ。…その時は信じられなかったけど、でも今では真実だったかもしれないって気がしてくるね…。あの子がいなくなるときだって…」


 女性は俯きながら呟いた。


「ふらっとどこかに出かけたから…青いぐるぐるしたものに吸い込まれていくところだった」


「(時空の渦…。やっぱりこの時代から現代へ渡ったのか)」


「あの子の身に何かあったのかと思うと気になってね…僅かな時間一緒にいただけなんだけど、それでも縁あって知り合ったんだし…悪いことになってないかと心配でね…」


「おばさん、大丈夫だよ。オレたちが探してるのはきっと同じ女性ひとだと思う。青い渦なら心当たりがあるし、きっとその人を見つけるから」


「そうなのかい?…じゃあお兄さんにお願いするよ」


「ああ、任せてくれ」







「セレナ海岸の画家のおじさんの話では、女性は『青い光の穴を通ってきた』と言っていて、描きかけの絵には古代の服を着た女性が描かれていた。そしてアクトゥールのおばさんの話では『女性は未来からやってきたと言っていた』って話だ…」


 アルドはその場を離れ、腕組みをして考える。



「…もし2人の証言が本当なら…あの絵の女性は未来から古代へやって来た後、時空の穴を通って現代へ飛ばされ、その後またどこかへいなくなったことになる。…ただ、服を置いていったはずなのに、あの絵ではしっかり古代の服を着てたのが気にかかるな…」


 あまりにも薄くはあるが、ほんの僅かながらでも謎の答えに繋がってきている気がする。

 

「彼女が今どこへいるのかはわからないけど…一旦未来へ戻ってみるか」





 その後、未来へと戻ったアルドは、青年の自宅へ赴き、言葉を失う。

 



 青年の家から、女性の絵が消えていた。

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