第11話 お婆ちゃん、魔女と戦う3


 日が暮れると、あたりは真っ暗となり、家の方向を見失うためだ。


「ハア、ハア、やっと着いた」


 何とか明るいうちにたどり着くことができた。


 あまり気にしていなかったのだが、魔女との戦いの最中に、かなりの距離を移動していたらしい。


 お婆さんの乗っていたホウキは家の近くで投げ捨てたままだったので、次の戦いがあればそんなことがないように気をつけようと思う。


 そのための空間魔法も身につけたのだから、これを利用しない訳にはいかないのだ。


 お婆さんは、ここで転移魔法を使えば、楽だったのだと思いつくが、後の祭りだ。


 この時、一度、覚えた魔法を整理して、どんな場合にどんな魔法を使うべきかも考えておこうと心に誓った。


 



「それにしても、手慣れたもんですねぇ」


「まあ、空き家だと思ったから、ここに勝手に住み着いて何日も暮らしていたからね。まさか、魔女の家だったとは思わなかったな」


 ここにきた時に家主がいると分かったのだが、空き家と勘違いしたと言い訳している自分が悲しい。


 とにかく、今は腹ごしらえだ。


「お兄さん。今晩はここで過ごして、明日出発だね」


「ああ、そうするしかないね。でも、ここはどこなのだろう?随分街から離れたと思う」


「魔女さま。教えてください。ここはどこなのですか?」


「私が聞きたいくらいだよ。詳しいことは話せないけど、いきなりこの草原に投げ出されて、彷徨った挙げ句にここにたどり着いたからね。それに私を魔女って呼ばないで。魔法が少し使えるだけのただのお婆さんだよ」


「少しって?アレほど凄い魔法が?」


 男性は呆れていた。


 それを無視して調理にかかる。


 この男女は、料理が全くできないらしい。




 身なりがいいから、どこかのお坊ちゃんとお嬢ちゃんなのだろう。


 落ち着いてから、この男女が20歳くらいの若者だと気がついたのは、つい先ほどだ。


 暫くして、焼肉にパン、野菜の盛り合わせが出来上がる。


「簡単なものだけど、食べようか」


 この2人、捕まってからろくに食べさせてももらえなかったようで、凄い勢いで食事にガッついているが、食事のマナーなんて忘れるほど飢えていたのかと可哀想に思う。


草原の魔女を退治したので、お婆さんたちはやっとほっかりできる事になった。


「それで?2人はどうして魔女に捕まったの?」


「はい。兄さんと呼んでいますが、私は前妻の子で、この人は後妻の子なのでお互いに血の繋がりはありません。でも愛し合っているのは事実なので、人目を避けて街の外れで会う約束をしたのです。そこにあの魔女が現れて、言葉巧みに私たちを街から連れ出したので、何も気づかないまま捕われました」


「兄妹の禁断の恋だね。なんだかロマンだねえ。それじゃあ、2人は障害を乗り越えて燃え上がる恋の虜なんだね、何だか話を聞くだけで盛り上がってくるよ」


 このとき2人は、話す相手を間違えたのだと気がついた。

 

(コレは、恋の話をしちゃいけないタイプだ。勝手に妄想して暴走して・・・・・何だかヤバそうな予感がするから話を逸らそう)


「まあ、そんなところで私たちは捕まりました。運ばれる途中で、草原の魔女だと正体を明かし、後に私たちの命を奪い、自分が若返るための糧となるのだから喜べと・・・」


「結果的に私も人に会えたからね。この辺りは誰も住んでなくて、困っていたんだ。それで?街へ戻るあてはあるのかい?」


「私は、方位学専門に研究してきたので、昼間になれば、おひさまの位置から、住んでいた街の大体の方向はわかります」


「そうかい?じゃあ大丈夫だね。そこにある干し肉や乾燥野菜に調味料を袋に詰めて持っていくといいよ」


「お婆さんは、ここに残るのですか?また独りになりますよ」


「うん。それも寂しいけどね。私には、行くあてがないから仕方ないんだよ」


「それなら一緒にどうですか?私たちの街なら大歓迎ですよ。住むところも仕事も沢山あります。お婆ちゃんが居れば、私たちの旅も安心できるし、良いことばかりです。それにあんなに魔法が使えるなら、街に着けば、バッチリ稼げると思いますよ」


「そうだねぇ。ここに残っても仕方ないし。よしっ、行くか?」


 こうして、お婆さんは街を目指す事になった。



 

 ろくに世話もされずに煤けていた男女2人は、数日ぶりの風呂を浴び、着ていた服を洗濯して、この家で身なりを整えた。


 男はクルム、女はチグサと言う名前らしい。


 男が、風呂で伸びた髭を剃ってきたので、鍛えられた肉体の上に、優しそうで若々しい青年の顔に変わっている。

 

(危なかった。私がもう少し若かったら、惚れてしまうところだったよ。今まで気がつかなかったけど、渋い中年だけでなく、年下もいいねぇ)


 相手は青年だから、私はショタコンではない・・・たぶん。


 女はほとんどそうだと思うが、いくら歳をとっていても、心は乙女なのである。


 男性経験はそれなりにあるが、心は清らかなつもりだ。


 たから、今でも、自称『恋に恋するお年頃』なのであった。


 女も、風呂から出てくると、化粧を落としたためか、幼い顔立ちの少女になっていた。

 2人とも洗濯物が乾くまで、着る服が無いので、毛布にくるまったままである。


 それから、夜がふけまで、この青年と少女からいろんな話を聞いた。


 話を聞く限り、この世界での街の暮らしは、想像以上に文化が発達しているので住みやすいと思う。

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