第3話 お婆ちゃん、魔物を退治する2
お婆さんは、明日の朝、白ヒヒが攻めてくると断言した。
「そうじゃ。危険は確定しておる。そして魔法は、それほど便利に使えるものではない。今日はたまたま、白ヒヒが障害物のない所にいたから倒せたが、村の中や森の中では、魔法を使うにも木々や家などが邪魔になるだろう。だから、村の総意が戦うと決まれば、夜のうちに罠を作るつもりなのさ」
「俺は、生け贄を出すなんてまっぴらだ。息子がやられたのに敵も取らないなんて我慢できん」
最初に意見を出したのは、お婆さんが助けられなかった子どもの親だった。
お婆さんが村人たちの総意を聞いたところ、みんな口々に戦う意思表明を示していた。
だが、村長はもう一度確認する。
「みんな聞いてくれ。戦うのに反対の者はいるか?誰もが自分の命は惜しいものだからな。遠慮はしなくていいぞ」
村長の問いかけにも関わらず、だれも反対を表明する者はいなかった。
「奴らの家畜として生きるなんて、死んだほうがましだよ。それに村長。身内や知り合いが殺されて奴らのえさになったんだ。報復できるチャンスが今しかないならここにいるみんな戦うさ。これからも奴らの家畜になるなんて考えられん」
「そうだ。奴らに復讐だ」
「私、父ちゃんの仇をとる」
小さな少女までが、戦いを望んだ。
「それじゃ、魔物と戦うことが皆さんの総意でいいね」
お婆さんが最終意思確認を行った。
「ああそうだ。だが、罠はどうやって作るのだ。手伝わなくていいのか?」
「このドームとともに、ある程度はできているが・・・。普段狩に使う毒トカゲの毒はあるかい?」
「ああ。それならかなり残っている。奴らのせいでずっと狩に出れなかったからな」
「それなら皆にやってもらうことを説明するよ。村の入り口にハシゴが置いてあるから、それを使って外の掘りの中に設置した木の槍に毒を塗る作業が1つ。今から私が村の中に落とし穴を数ケ所作るから、そこの中に設置する木の槍に毒を塗るのが2つ目の作業。3つ目は私が1人でやるので、その2つを村人みんなで作業しておくれ」
「わかった。要するに我々は木の槍に毒を塗ればいいのだな」
「そうじゃ。手分けして一気に片付けるとしよう」
それから2時間ほどで作業は終わった。
その次に、アチコチに散らばっている生活用家財を村人総出でドームに運び込んで整理していたら、辺りが薄明るくなってきた。
いよいよ戦いの時である。
昨日までと違い、みんなの顔が引き締まり、誰もが戦いを覚悟している。
「さあ、お客様がやってきたようじゃ。みんな!ドームへ入るぞ」
ゾロゾロとドームへ隠れる村人達。
そして最後に入り口を閉めてみんなが閉じこもる。
ドームの中は、持ち寄った敷物があるので、その上にいれば意外に快適だ。
水も泉から引かれているし、それに調理場と何人も一度に入れる大きい風呂や複数のトイレもあったので、食料の備蓄がある限りはここで生活できる。
ただ、個人のプライバシーが無いのが唯一の欠点だ。
外の塀の一部が切れている部分が村の入り口である。
その外にも掘があるが、跳ね橋で渡れる様に作られていた。
跳ね橋を上げ忘れたのか、そのまま白ヒヒ達が橋を渡って村へと入ってくる。
村へとやってきたのは全部で7匹。
体格的に全て大人の白ヒヒだ。
白ヒヒは、人の匂いを追って村の中に作られたドームにまで来たが、そこからどうやっても中へは入れない。
白ヒヒたちは、だんだんイライラしてきたようで、ドームを棍棒で何度も殴りつけるが、そのくらいではビクともしない。
ドームの中では、白ヒヒがドームを叩くと起こる金属音がうるさいくらいで、それさえ我慢すれば耐えられる状況だ。
やがて、白ヒヒたちが、村人の隠れたドームをどうにもできない怒りに我を忘れて吠え始めた。
「そろそろ頃合いかな?」
そう言い残してお婆さんは、ドームの端の床に開いている四角い穴へと潜っていった。
お婆さんがドームを抜け出して5分くらい経った時、ドームの外が騒がしくなった。
「ズドーン・・・・・」
白ヒヒたちが、吠えるのをやめて騒ぎ始めたときに、大音響とともに地響きが起こる。
恐らくお婆さんと白ヒヒとの戦いが始まったのだろう。
何が起こっているか興味が出るが、誰もがドームの扉を開けて覗くほどの勇気はない。
それから数分後、辺りが静かになり、ドームの端の床穴から『ヨッコラショ』と、お婆さんが出てきた。
「もう、外に出ていいよ」
「お婆ちゃん。早かったね。終わったの?」
「ああ。みんな頑張ったな。これで白ヒヒ退治は終わりじゃが、後片付けが待っておる」
「うわぁー。やったぁ」
村人の歓声が起こり、次々にドームから外へと飛び出て行く人たち。
いざ、戦いが始まると、呆気なく終わったのだが、ドームの外は、惨劇が起こったほど血塗られていた。
体の半分が飛び散った白ヒヒ。
昨日の様に、両足を切り落とされた白ヒヒ。
落とし穴で木の槍に刺さっている白ヒヒ。
他の白ヒヒたちは、外の掘りの中で串刺しになって息絶えていた。
村のどこもかしこも血まみれであるが、村人たちの顔は晴れ晴れとしている。
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