第2話 お婆ちゃん、魔物を退治する

 

「ホルボ。そうは言ってもな。戦える者はもう残っておらん。それに、村の応援にに駆けつけてくれたのがたった1人では役に立たないだろうが」


「やってもみないうちから、そう言いなさんな。村長がしっかりしないと纏まるものも纏まらないよ」


 お婆さんが、諦めムードを断ち切ろうと村長を励ます。


「そうだよ。せっかく俺が魔女を連れてきたんだから言う通りにしてくれ」


 お婆さんが思ってもいなかった援護が、少年からの発言だった。


「アンタ。魔女なのか?」


「正確には魔女じゃ無いけどね。魔法は使えるよ」


「みんなっ。頑張ろう!魔法使いがきてくれた。頑張れば生き残れるぞ」


 ここで、一気に村人の態度が変わった。


 思いもよらない援軍に、沈んでいた気持ちが刺激されたらしい。


「それじゃあ、元気な者は、2mの長さの木の槍をたくさん作って。槍と言っても、木の棒をを尖らせるるだけでいいからね」


「それと、力の無い女や子どもたちは、薪を集めてこの鍋を煮込んで」


 お婆さんがテキパキと指図を始め、何処から取り出したのかわからないが、大きな鍋には沢山の具材が入っていた。





 慌てて村の女や子どもたちは、お婆さんが土魔法で作った大きい竈の上の鍋を煮込み始める。



 それからお婆さんは、魔物の襲撃から守るために大きく村を囲うように魔法で木々を薙ぎ倒し、小さく割り揃え、槍の材料とした。


 その木々の無くなったところに、お婆さんが魔法で深い掘りを作る。


 掘り上げた土は、魔法で固められ、堀の内側に高さ3mほどの壁となった。



 それからお婆さんは、村の中心に湧き出る泉を中心に、土で出来た巨大ドームを作り上げた。


 塀もドームも土でできているはずなのに、叩けば金属音がするほど硬い。


 それが、お婆さんが村に現れてほんの1時間ほどの出来事だ。


 これほど急いで作業しているのは、村人に考える時間を与えないためなのだろうか?


 それからお婆さんは、出来上がった木槍を堀に逆さまに埋めていく。


 この堀に落ちたら、本当の串刺しだ。


「まあ、こんなものだろうね。いい頃合いだから食事でもとろうか」


 ちょうど、鍋もほどよく煮込まれた頃だ。


 みんなでドームに入り、食事をすることとなった。


 ドームの中は、大人の背丈ほどの高さでクルッと円を描くように照明が付いていて明るいし、一番上には火を起こした時の煙突と別に明り採りと換気を兼ねた穴が開いている。


 ここから雨が打ち込まない様に穴の一段上で、横から空気の流入がある造りだ。


 床の一部には、村の中心の泉から水が引き込まれ、区切られた部屋を通ってドームの外へと流れ出していた。


「ここに逃げ込めば魔物に襲われても大丈夫だし、入り口を閉めれば何日でも持ちこたえられる。流れる水は、そこの一番上流部が飲料と料理用の水で、次の部屋が水浴び用だよ。そして一番最後がトイレだ。くれぐれも間違えない様にするんだよ」


 ここに入ってきた村人達は、口々に『へぇー』とか『ほぉー』とか驚いている。


 みんなが落ち着いたところで、鍋が振舞われた。


「う、美味い」



 鍋は、塩味しかついていないが、いろんな具材のダシが効いて後を引く美味しさだ。


 それに、暫くまともに食べていない村人達の胃袋には染みるらしく、次々にお代わりが出てきていた。


 食事により、少しだけ落ち着いた村人にお婆さんが問いかける。


「それじゃあ、食べながらでいいから、みんな聞いておくれ。今日襲ってきた魔物だけど、『白ヒヒ』という魔物だよ。魔物のくせして、奴らは道具も使うし頭もいい。それに連携して攻撃する事もある」


「そんな魔物がこの村を襲っていたのか」


 物知りそうな村長さえも知らない魔物だったらしい。


「なかなか厄介な魔物に目をつけられたね。奴らはこの村を餌場として認識しているから、これまでも必要以上には人を殺さなかっただろう?それに、他の魔物や獣が村に手を出さない様に、村を守ってくれる。だから、定期的に生贄を出して共存している村も存在しているくらいだけど、勘違いするでないぞ。それは、奴らの家畜となる事じゃからな。一応私は戦うつもりだけど、村の総意でそれを望むなら、ここから引き上げる」


 そう言い放って、お婆さんは周りを見渡した。





 お婆さんが、村を襲った白ヒヒの習性について村人たちに説明している。


 そして、何より大切な村人たちの判断を問うた。


「さっきも言ったが、いけにえを定期的に出せば、魔物の家畜として村を守ってもらう方法もあるのだよ。まあ、私としてはおススメしないけどね。ただ、この辺りだと今後もいろいろな魔物や魔獣に遭遇するだろうから、それも選択の一つになる」


「戦うか、家畜になるか。それが決まるまでは、我々はこの先ずっとこうして怯えて過ごさなければならないのか?」


「さすが村長じゃ。飲み込みが早いね。奴らは今日は獲物が捕れなかったが、一匹やられたので、警戒して遠目に我々を見張っておったよ。だが、我々からの追撃がないと思ったらしく、先程は、随分と近くまで来て観察していた」


 お婆さんが、魔物が村の近くに来ていたことを暴露したので、村人に緊張が走る。


「奴らは我々人と同じで夜目は効かない。だから夜は攻撃してこないよ。今日は白ヒヒがこちらの動きを警戒している間に夕方になり、周りが暗くなりかけたから、寝ぐらへと引き上げていったけど、明日の朝にはここに収穫にくるだろうね」


「それは、明け方が危険という事か?それで?お婆さんの魔法でどうにかなるのか?」


 お婆さんの指摘に、村人に恐怖がよみがえったらしい。

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