世話焼き婆さん、異世界で無双する

小碓命

第1話 お婆ちゃん、人助けをする


「助けて!お願いします。助けてください」


「しつこい奴だな。さっきダメだと言われただろ。ここへはもう二度と来るな」


「お願いします。何とかお願い・・・・」


 ここは役所前。


 お婆さんが街中を歩いていると、ちょうど通りかかった役所から、役人によってつまみ出される少年に出会った。


 その様子を、誰もが見て見ぬふりをして通り過ぎていく。





「坊や。どうしたんだい?」

 

 役所で相手にしてもらえなかったためか、少年に元気がない。


「お婆ちゃんじゃ、話にならないよ」


 涙ぐんだ少年はイジケながら役所を睨む。


「そうかい?でも話すだけでも何かの糸口になるかもしれないよ」


「わかったよ。でも、こうしている間にも村の人たちが死んでいるかもしれないんだ」


「おやっ?それは穏やかじゃないね。それなのに何で役所は坊やを追い出したのかな?」


「俺の村は、正式な村じゃないから受け付けられないって」


(ははあ。流浪者が勝手に住み着いた開拓村か)


「それじゃあ、坊やの村は開拓村かい?」


「そうだよ」


「それで?人が死ぬって伝染病なのかい?」


「いいや。魔物に襲われているんだ。アイツら腹が減るとやってきて村を襲う。でも、村のみんなは抵抗したんだ。だけど強い大人たちはほとんどやられたよ」


「どんな魔物なのかな?場合によっては、被害が広がるから、代わりに役所に掛け合ってみるけど」


「どんなって言われても・・・・遠くから見た感じでは、魔物は全身が毛に覆われていたし、自分たちは隠れていたからよく分からないよ」


「そうかい?それじゃあ仕方ないね。私が行くよ」


「お婆ちゃんが村に来たって、ヤツらの餌になるだけさ。だから役所から何とか兵士を派遣してもらわないと」


「私を信じてみな。今まで困難を何とかしてきたからこんな姿なんだよ」


「確かに長生きなのは認めるけど・・・」


「それじゃあ、行こうか?坊やの村はどこにあるんだい?」


「街の東だよ。ずっと向こう」


「あっちは、昔から魔物が多いらしくて誰も近寄らないところだね。何でそんなところに住んだのかな?」


 お婆さんは少年と話しながらそこに向かった。


「だって、俺たちの住めるところは、そんなところしかないから・・・」


「すまなかったね。そんなつもりで聞いたんじゃないよ。魔物対策ができるのか気になっただけさ」


 そんな話をしながら歩いているうちに、門を通り越して街を出る。

 




 暫く道沿いに歩き、人目がなくなると、お婆さんは、少年に話しかけた。


「坊や。ここからは急ぐよ。後ろに乗りな。しっかり捕まらないと落ちても知らないよ」


 何処からか取り出したホウキに跨るお婆さん。


「お婆ちゃん。魔女なの?」


「ホウキに乗るといえば魔女だから、そうなのかもしれないね。厳密には魔女からもらったというか奪ったというか・・・。まあ、そんな小さなことはどうでもいいから、落ちないようにしっかり掴まっているんだよ」


「うわぁー。ちっ、ちょっとお婆ちゃん。はやっ、早すぎるー」


 道なき道を木々の間をすり抜けて飛ぶホウキ。


 木々の枝が何故だか動いて避けている。


 流石に根本からは動かないので、ホウキは上下左右に木々をかわす。


 少年は、振り落とされないよう必死にしがみついている。


 このお婆さんは、少年の来た道を辿っているようだが、なぜわかるのだろう。





「坊や。ここらでいいかい?」


 暴れるように飛びまくったホウキから降りると、少年は、ヘナヘナと地面に座り込んだ。


「おやおや、もうへばったのかい?もしかして、漏らした?」


「漏らしてないし!! ちょっとちびったけど」





 すると、急に少年をからかうお婆さんの顔が引き締まった。


「坊や。悪いが、休憩している暇は無いようだよ」


 ここからは見えないが、木々の先から何かを破壊するような爆音がする。


 ホウキをかたずけ、急いで音のする方へかけていくお婆さん。


 木々を抜けると、ランダムに建てられた掘立て小屋の並んだ村に出たが、その半数は破壊され、木片が散らばっている。


「コラッ、リョウマを離せっ」


 その叫ぶ先には、巨大な白ヒヒが血まみれの子どもを抱えて村を去ろうとしているが、1人の男が木の棒を持って行く手を塞ぎ、戦おうとしている。


「コリャ酷いね。それっ」


 突然現れたお婆さんの掛け声とともに、白ヒヒの両足がズパンと切断された。


 白ヒヒから舞い上がる血飛沫で、辺りは真っ赤に染まる。


 そして、地面に投げ出された子どもに急いで駆け寄るお婆さん。


「残念だね。間に合わなかったよ」


 お婆さんが助け出した子どもは、すでに事切れていた。


「リョウマーあああぁー」


 そこに駆け寄った男が泣き叫ぶ。


 お婆さんは、男に子どもの亡骸をそっと渡してそこを離れた。





 両足を失った白ヒヒは立ち上がろうとして、その場でもがいていたが、急激な出血でだんだんと動かなくなり、とうとう力尽きたようだ。


 魔物の一匹が、殺されたためか、今は、この近くに魔物の気配はない。





「村長はいるかい?」


「私ですが・・・」


 あちらこちらと隠れていたところから、村人たちが出てくるが、みんな元気がない。


「動ける者を集めてくれる?村がこのままだと、また襲われるよ。悲しむのは後でも出来る。生き残るには今が頑張り時だ。しっかりしな」


「お婆ちゃんの言う通りだ。みんな!戦おう」


 白ヒヒを倒したお婆さんを村へと連れてきた少年が、勢いづいた。

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