第8話 お婆ちゃん、魔女に遭遇する


 その日は突然やってきた。


 お婆さんがホウキに乗る練習を兼ねて、この家の周りの探検に出ていた矢先の出来事である。


 お婆さんは、この数日間、狩を行って魔物や獣との実戦には、自信?もついてきた。


 今では、闘うことの恐怖も感じず、淡々と獲物を狩ることができる。


 初めは魔法による遠距離攻撃していたが、今では近接戦も得意だ。


 どうしてそうなったのかと言うと、お婆さんの魔法は威力が大きく、肝心な肉が残らないためだった。


 接近戦を経験すると、その命のやり取りの緊張感が堪らないし、攻撃をギリギリで躱したときの「ヒヤッ」する感じも堪らない。


 今まで知らなかったが、お婆さんは意外にもバトルジャンキーだったのか?





 遠くに見える山までも、家で見つけたホウキで空を飛ぶと時間もかからないので、行動範囲も広がった。


 この辺りまで来ると、地上には有害か無害か判別できない獣たちがウロウロしている。


 お婆さんが肉を求めて狩をするには絶好の場所だ。


 食べられる獣や魔物は、本に載っていたとおりに解体するのにも慣れて、今では、何処にナイフを入れて、どう解体するのかも概ね勘が働くようにまで成長した。


 そのため、ここでの生活を始めてからは、肉に不自由したことはない。


 歳をとると、野菜中心になると聞いたが、お婆さんは今でも肉をモリモリ食べている。





 それにしても、お婆さんがこの世界に来て、人を1人も見かけた事がないのだが、今住んでいる家の持ち主は、間違いなく人だろう。


 ここに住んでいた家主は、家具の大きさ的にもお婆さんと同じくらいの身長のはずだ。


 家にあった服の大きさも同じくらいだし、女性ものだったので、お婆さんは勝手に利用している。


 人の使っていたものなのに気にならないのは、おばさん特権なのだろうか?


 実際には、お婆ちゃんとしておばちゃんの域を超えているので、もうベテランの域に達しているのだ。





 お婆さんが厚かましいのは生まれつきだ。


 それがおばちゃん化してパワーアップしているのは否めない。


 だが、この厚かましさが無かったら、前世の運の悪さに耐えきれず自ら命を絶っていたかもしれない。


 お陰で、こんな異世界に飛ばされたのに、今も何とか生きている。





 お婆さんが今日の狩を終え、住み慣れた家に戻ると、家の前に檻があり、中に大人の男女2人が倒れていた。


 この異世界の人間が『頭に角があったり、牙が伸びていたり、しっぽがあったりしたら嫌だなあ』とお婆さんは想像していたが、この異世界で初めて目にした人間は、まったく違和感のない姿だったし、嫌な感じはしない。


 だが、初めて会う人物が気絶しているとは思いもしなかった。


 こんな檻が家の前にあるなど不思議だが、檻の中の人に声をかけてみる。


「もしもし、生きてますか?」


「うーん。ああ、人か?」


 髭の伸びた男の人が、声に反応しだが、何だか意識がはっきりしていないようだ。


 そして、嬉しい事に男の発した言葉をお婆さんが理解できた。


 本を目にした時にも思ったが、文字と同じで、この世界での言葉も、前の世界と同じように話せる事に感謝だ。


(神さま、ありがとう)


 お婆さんが心の中で神様に感謝していると、その男が「ハッ」として目の前のお婆さんを見つめ、


「悪い事は言わない。すぐに逃げろ。見つかるとヤバい」


と小声で警告してくれた。


 どうやら意識がはっきりしたようだ。




 だが、お婆さんとしても、この2人を置いたまま逃げるわけにはいかない。


(どうしようかな?)


 と思いつつ、檻の鍵を魔法で壊す。


 しかし、こんなに簡単に壊れていいのだろうか?


 鍵に対して大きなお世話かもしれないが、もう少し丈夫にして欲しい。


「あっ、アンタも魔女か?アイツの仲間だったのか」


 少し落胆した様子の男。


「いいや。通りすがりのお婆さんだよ」


 どうでもいい会話だが、もう少し気の利いた返事はできないものか。


 『通りすがり』って・・・怪しさ満点だ。


 とりあえず、2人を檻から出すことができた。


 女性は男性に抱きかかえられたまま、まだ意識が戻らない。




(さて、この男の言うことを信じるなら、すぐに逃げないとかなり危険な状況なのかも。でも、どうやってここから逃げるかな?)


 お婆さんがそう考えていると、家の中から、気味の悪いお婆さんが出てきた。


 見るからに意地悪そうだし、自分と気の合いそうに無い老婆だ。


 悪い性格が顔に出ている。


(見つかった)


「お婆ちゃん。逃げるんだっ」


 男が叫ぶ。


「いや、もう逃げられないから、戦うしかないよ」


 そう平然と答えるお婆さん。


「お婆さ・・・お馬鹿さんなのか?」


 今まで誰も倒せなかった魔女と戦うなどあり得ないので、男は呆れたらしい。


「家の中が荒らされていると思えば、お前かぁ。それに私の若返りの材料を取ったなぁー」


 魔女は、当然のごとく怒っている。


 お婆さんとしては、最初にここを訪れた時に、この人に会わなくてよかったと思う。


「家を勝手に使ったのは謝るけど、若返りの材料って知らないわよ」


「そこにいる2人の事じゃ。最近、物忘れもひどくなってきたから、ワシは、若返るのじゃ。それを・・・苦労して捕まえたのに檻から出すとは何事じゃ」


 「◯◯じゃ、◯◯じゃ」と煩い。


 それに、余りの怒りに口から唾が飛ぶほど大声で叫ぶ。


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