第6話 お婆ちゃん、異世界転移する
時は遡る。
「ありゃりゃ?ここはどこだろうね」
草原の真っ只中に一人佇むお婆さん。
ここから見渡す限り、人の気配ばかりか動物さえ見つからない。
見えるのは、足首くらいの高さの草原で、所々に少し高い草が生えているが、何かがその影に隠れられるほどでもない。
神の手違いで、このお婆さんは寿命を残したまま命を失ったために、残りの人生を知らない土地で暮らすこととなったのだが、その説明をすっかり忘れていた。
その時の事故で元の体が失われたために、さすがに神の力でも生き返らせることはできなかったらしいし、特例として、ちょうど寿命を終えるが同じくらい年齢の女性がいるので、その器に移すと言われていたのだ。
簡単に言うと、魂のすげ替えらしいのだが、その人の縁もゆかりもない場所へと運ばれるので、何のしがらみもないらしい。
お婆さんは元々死ぬ予定もなかったので、何らかの形で寿命を終えないと輪廻の輪にも加えられないらしいのだ。
さっき、神さまから転生の話を聞いたばかりなのだが・・・
早くもボケたか?
お婆さんは、話を聞きながらフンフンと神さまに相槌を打っていたはずなのだが、全く理解していなかったようだ。
お婆さんは、ここでやっと、神さまに最後に言われたことを思い出す。
「転移物でよく聞くようなチートな事は与えられないが、運だけは最大限に上げておいた。残りの寿命を楽しめるようにな」
お婆さんは神様からその話を聞いたとき、これまで生きてきた中で、確かに人生は運だと思った。
努力も大切なのかもしれないが、全て運で片付けられてしまう。
いくら努力を重ねても、運のいい者は簡単にその上を行くのだ。
前世での経験上、このことに関してはイヤになるほど感じていた事実である。
それにしても、生まれ変わるのではなく、新たな世界で残りの人生を過ごす事になるとは・・・。
神様にしては、ショボすぎる扱いじゃないたろうか?
まあ、、成るように成るしかないね。
考えてみると、お婆さんが若かりし頃、容姿はいいと言われるのに、運が悪いのかロクな男と出会えなかったし、ずっと独身だった上に、今はお婆さんになってしまった。
それに加えて早くに両親を亡くしたし、財産もなく、雇ってもらえた仕事は最悪で貧乏な人生だったし、生きるために必死で、友達も作れない人生だった。
そしてある日、死神見習いの練習で本当に死んだのだ。
運が悪いのもあるのだろうが、これは神さまの監督責任である。
神が言うには、練習中に訓練用の死神の鎌を使うべきところ、間違えて本物を使用して振り回してしまったらしい。
そこに運悪く通りかかったお婆ちゃん。
魂を狩られ、倒れたお婆ちゃんの体をを避けようとして横転したタンクローリーが爆発炎上し、その身体は消し炭となって永遠に失われた。
このお婆さんとしては、現世に特に未練もないのだが、神の提案を受け入れるしかなかったのである。
「さあて。どちらに向かうかなぁ。あの辺に綺麗に花が咲いてるみたいだから行ってみよう」
転移先が新しい体だといっても、人のお古だし、どんな顔になったのかもわからないが、中肉中背で特に太ったり痩せたりしている様子もない。
要するに、お婆さんが今まで生きてきた状態とあまり変わらないように感じるのだ。
転移先の体が、貧弱な胸が大きくなるといいなと期待していたが、そこも以前と変わらなかった。
まあ、貧弱であれば、年齢によって垂れにくいことが救いかもしれない。
お婆さんの年齢は死んだ時とほぼ変わらないし、見渡す限り誰もいないこんな野原に体一つで放置されても、お婆さんが何一つ持ち物を持ってないのだから、まるで『ここで死ね』と言われているようなものだ。
だが、お婆さんはとりあえず言葉に出して気合を入れ、異世界の花畑を目指すことにした。
呑気な発想だが、人間、死ぬ時は死ぬ。
転移早々に死ぬことだってあるはずだ。
残りの人生、どれだけ残っているかわからないが、花畑で死ねるなら本望だと思った。
「はあっー。やっと着いたぁ」
今まで歩いたことの無いくらいの距離を歩いたのは初めてだ。
何でかわからないが、達成感もあるし、自分の頑張りを褒めてあげたいと思う。
遠くから見えていた花畑は、近くに来るとそれほど綺麗でもなかった。
色とりどりに見えていたのは、葉っぱであり、お婆さんの好きな花ではなかったのだ。
言っちゃ悪いが、一面草だらけである。
草原だから当然の事だが、残念なのは変わらない。
(ここから見ても、見渡す限りの・・・・)
文句の一つくらい言ってやろうとした時、遠くに何かを見つけた。
「んっ?何かあるわね・・・・小屋?」
遠くに小さく建物らしきものがポツンと見える。
「こうなれば、行ってみるしか無いわね」
それから、歩き疲れて痛む足を引きずりながらもたどり着いた目的地。
「コンコン。誰かいませんかー」
入り口をノックして呼んでも誰も出てこない。
家のドアには鍵もなく、すぐに開いた。
(不用心だねぇ、仕方ないなぁ。これじゃあ入ってくれと言っているようなものだし)
自分のいいように解釈してお婆さんは家の中へと入って行く。
「誰もいませんかぁ?入りますよー」
家の中に入ると、意外にこじんまりしているが、住みやすそうな家である。
置いてある家具も素人目にもわかるくらい上質なものだ。
適当にあちこち覗いたところ、家具や食料もふんだんにあるので、少しここで待たせてもらうことにした。
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