第81話 無能な王
ディスガルド帝国 国境付近
アースガルド・ディスガルドは自ら軍を率いて、進軍していた。
「あっちの軍が壊滅しとる姿を早く見たいもんだな、レスターよ」
「そうでございますね、陛下」
ディスガルド軍は秘密兵器の投入によりレオンハルト国の首都が落ちた後、侵略を開始する手筈となっていた。我先にレオンハルト国を蹂躙して財を奪えると言うことで、こぞって貴族たちは軍に参加していた。
首都陥落の連絡をしてくるはずの物見からは全然連絡が入って来なくなってきたが、誰も気にした様子はなく、蹂躙する事だけで頭がいっぱいだった。唯一、宰相のレスターだけは近くにいる筈のクロウがいない事に不安を覚えていた。
森の方から草をかき分ける音が聞こえ、物見が帰って来たのかと、兵士が前の様子を見に行くと代わりに出てきたのは1匹のモンスターだった。
急に出てきたモンスターに兵士は驚きの声を上げるが、周りの兵士は、その様子を見て笑い声をあげた。何、一匹のモンスターにビビっているんだと。
しかし、続々と出てきたモンスターたちに周りの兵士たちの表情から笑顔が消えた。最初はモンスターと応戦していた兵士もあまりの数の多さに5分も戦うと腰が引けて来ていた。
貴族たちはモンスターの数の多さに逃げようと考えるが、いつも間にか、軍の周りは完全にモンスターによって包囲されていた。
「どうなっておるのだ、レスター」
アースガルド王からレスターに叱咤が飛ぶが、レスターにもわけが分からなかった。
「恐らくダンジョンモンスターなのはわかりますが、国境の付近にダンジョンが発生したものと思います」
「なら、早く対処しろ、無能が」
そんなこと言われてもこの数のモンスターには打つ手が無いととレスターは心の中で思った。やれることがあるとすれば引くことだけだとレスターは兵士に指示を出す。
「全軍反転、一旦、下がって体制を立て直すぞ」
「なっ、レオンハルト国はどうするのだ?全軍停止」
レスターはアースガルド王の事を見て、何を言っているんだ、こいつは、という視線を向けた。
「陛下、今、引かないと取り返しのつかない事になりますよ」
「うるさい、儂は、レオンハルト国に行くのだ」
この言い争いの時間がディスガルド軍にとって致命的な時間となった。空から3匹、ディスガルド軍を囲うようにドラゴンが現れた。それにより、完全にディスガルド軍は退路を断たれる形となった。後はドラゴンたちに蹂躙されるだけだった。
「何故なのだ、何故、儂の思い通りにならん」
アースガルド王にとっては、何事も自分の思い通りになることが当たり前だった。思い通りにならないのは人の感情ぐらいであった。死ぬまで自分に従わないものもいた、しかし、そんな者は全員、死刑で一族もろとも殺してきた。そんな王は今、初めて自分の思い通りにならない出来事が信じられなかった。
そんなボケっとしている人間をドラゴンが放っておくはずもなく、あっけなくアースガルド王はドラゴンに食われるのだった。
そんな王を横目にレスターは逃げようとするが、あっさりと横からやってきたモンスターに手足を食いちぎられ、絶命した。
ディスガルド軍は無能な王の命令によって壊滅的に被害を受けたのだった。
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