第79話  緊急招集

地面に鉄の塊が染み込んでいく中、フェリクスは少しだけ、違和感があった。


(何故、この兵器を最初から使わなかったんだ?そうすれば、すぐに首都は陥落し、混乱の最中、ディスガルド帝国は簡単にレオンハルト国を攻略出来たはずだ。そう出来たのにディスガルド帝国が使わなかったのには、何か理由がある筈だ。考えられるとすれば、この兵器がまだ完成していなかった、もしくは、何らかの理由で使いたくなかったか)


フェリクスは思考を加速させていくが、その答えはすぐに目の目に現れた。


「なんだ、あれは?」


兵器の沈んでいった地面が盛り上がり、そこから、様々なモンスターがわらわらと出てきた。フェリクスはそのモンスターたちの出現方法に見覚えがあった。


「ダンジョンモンスターか」


しかも、モンスターの出方から倒した巨人の場所、3か所にダンジョンが出来ている事が見て取れた。フェリクスは、寄ってくるモンスターたちを切り伏せながら、ゆっくりと後退していった。そんなフェリクスの頭の中にウンディーネの言葉が過っていた。


『神力が溜まってしまうとその辺の地域や魔物とかに悪影響を与えてしまうのよ』

「悪影響ってダンジョン発生も入るのかよ」


流石のフェリクスもダンジョン成形中のダンジョンコアの場所は分からなかった。地面から出てくるモンスターを倒しながら、フェリクスはすぐにダンジョンコアを破壊する為、ダンジョンの成形を待っていた。しかし、首都の方から空に魔法で赤い花火が放たれる。それは、アベルと決めていた緊急時の信号だった。


それは本当に緊急事態しか、送らない約束だった為、フェリクスは渋々、首都に向かった。


門はもちろん閉じていた為、フェリクスは城壁の外から駆け上がる。城壁の上には兵士に指示を出しているアベルの姿があった。


「緊急事態ってことで来たんだけど、どうしたの?こっちもあんまり時間がないんだけど」

「各地でダンジョン発生報告が飛び込んできた」

「なるほど、それは緊急事態だ」

「それも30以上のダンジョンが発生しているらしい」

「さっきの巨人の所でもダンジョンが発生しているし、多分、あの兵器を使った場所がダンジョンになったんだろうね」

「だとしたら、40以上の数、ダンジョンが発生したことになる、我が国の戦力では対応できない」

「だろうね、冒険者を呼ぶにもそんなに直ぐには人は集まらないだろうね」

「では、私たちはここを守る事しか出来ないのか、他の民を見捨てて・・」


打って出ようにも直ぐに首都の周りにもモンスターが溢れ始めていた。アベルの落胆する姿に、昔、無力だった自分を重ねたフェリクスはアベルにある質問をする。


「どんなに報酬は高くなっても、民を見捨てたくない?アベル」

「勿論だ」


フェリクスの質問にアベルは即答で答えた。


「OK、その言葉、忘れないでね、アベル」


フェリクスはアベルの答えを確認すると自分の耳にあるイヤリングを触って、魔法を発動する。


「緊急事態発生につき、クレソン商会の副会頭として、緊急招集を掛けます。戦える戦力は、今すぐ、レオンハルト国のクレソン商会に転移を使用して迅速に集合してください」


フェリクスが使ったのは本当に緊急事態しか、使わない商会の緊急通信だった。フェリクスの連絡が終わっての直ぐに、フェリクスの頭上から、転移の光が3回見え、上から人が降ってきた。


「全く、またトラブルなの、フェリクス、何回、父さんを心配させれば、気が済むの」

「まぁまぁ、父さん、フェリクスも悪気があるわけじゃないんだから、そこら辺で」

「・・・元気だったか、フェリクス」

「いつも通りだよ、ロレンツ兄さん」


そこに現れたのは、クレソン一家だった。


「それでわざわざ緊急連絡まで使って、父さんたちを呼んだ理由はなんだ?なんか遠目にモンスターの集団が見えるがダンジョンか」

「うん、そうだよ、ダンジョンが30以上同時、発生してね」


フェリクスは気軽に言うが、事の重大さに皆は一瞬、言葉を失った。


「道理であんまり、俺たちを頼らない、フェリクスから連絡が来るはずだ」

「お前はどうしたら、そんな事態になるんだ、こんな事態聞いたこともないぞ」

「・・・それは面白い」

「まぁまぁ、それだとあまり時間はないな、正確な場所は分かっているのか、フェリクス」

「まだ、ダンジョン成形中の所もあるはずだから、全部の正確な場所は分かってないよ、ヴェルナー兄さん」


フェリクスの言葉のヒントから状況を理解する速さは流石、ダルクの教育と言った所だろう。


「つまり、何らかの理由でダンジョンが出来たという事か、いや、今はこの話はちがうね、分かった、それじゃ手分けをしよう、それでいいかな、父さん」

「ああ、構わん」

「・・・原因、気になる」

「後で話すから、今はダンジョンに集中して、お願い、ロレンツ兄さん」

「・・・フェリクスの頼みならそうしよう」

「では、俺の索敵魔法で、大体の位置を掴んで置くぞ」

「ありがとう、親父」


そう言うとダルクからは、あり得ない量の魔力が溢れ出した。


「アベル、ここら辺の地図ある?」


クレソン一家の登場に呆然としていたアベルだったが、フェリクスに声を掛けられて、遅れて反応する。


「ああ、地図を持ってきてくれ」


アベルの声に兵士が地図を持ってきてくれた。


「大体、分かったぞ、地図を貸してくれ」


兵士からダルクは地図を貰うと、指でモンスターの位置を指し始めた。


「フェリクスの言っていたことは本当の様だな、ディスガルドとレオンハルトの国境沿いに大量のモンスター反応がある、この位置関係だとヴェルナーは右から、ロレンツは左、俺とフェリクスは正面と言った所だろう、途中に村が幾つかある、助けるのを忘れるなよ」


皆がダルクの意見に頷こうとしていたが、フェリクスだけ、別の意見を進言した。


「それだとディスガルド帝国の民衆を助けられないよ、親父」

「国境の傍には、軍が待機している反応があった、あっちはあっちに任せておけばいいだろう」

「ディスガルド軍がそんなに優秀じゃないのは親父も知っているだろう、それだと無理でしょ」

「しかし、これはあっちの所為なのだろう、あっちまで助ける必要があるのか?」

「民に罪はないよ」

「・・・何も言っても無駄なようだな、お前は昔から、あの国の民を救いたいと言っていたな、見た所、半分以上魔力を消費してそうだな」

「親父には隠し事は出来なさそうだね」

「モンスターから守るだけなら、大丈夫だろう、無理はするなよ」

「分かっているよ」

「フェリクスの配置だけ、ディスガルド国境沿いに変えて、出発だ」


配置が決まるとクレソン一家は次の瞬間にはその場には居なかった。


「あ、アベル、続々とクレソン商会に冒険者がくると思うから事情説明、よろしく」


フェリクスの声が遠くから辛うじて聞こえたが、アベルには全くその姿が確認出来なかった。


こうして、クレソン一家によるダンジョン攻略が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る