第69話  頼み事

一方、フェリクスは、助けたドワーフたちの対応に追われていた。マリアンヌさんからは小言をちゃんと頂戴しながらも、ドワーフたちの希望を聞いていた。


「それで皆さんは、故郷に帰りたいで相違ありませんね?」


代表のドワーフ、ロディオンはフェリクスの問いに頷きを返した。


「ああ、儂らは全員で決めたぞ」

「わかりました、貴方たちの体力が回復次第、我が商会で護衛して貴方たちの故郷に連れて行くいことを約束しましょう、それまではこちらの用意した屋敷で静養していて下さい」


そう言うとフェリクスは商会の者を呼び、ドワーフたちを連れて行ってもらった。


ドワーフたちが居なくなった後、執務室にマリアンヌさんがノックをして入ってきた。


「失礼します、副会頭」

「どうぞ」

「ドワーフたちの護衛の件を聞きたいのですが?」

「何を聞きたいの?」

「どのランク帯の冒険者に任せるのが適正かお聞きしたいと思いまして」


マリアンヌの質問にフェリクスは少しして答えた。


「親父に頼むか」

「え、会頭に頼むのですか?」


フェリクスの解答が以外すぎたのか、マリアンヌは珍しく驚愕の声を上げた。


「ドワーフ故郷をむやみたらに知られるわけにはいかないけど、道中の警護が足らないのもいけないからね、それだとかなり条件で考えると俺ら家族はうってつけってことだ、俺はもうすぐ学校が始まっちゃうし、他の兄たちも自分の仕事がある、となれば後は親父だけって事だね」

「しかし、会頭は護衛を受けてくれるでしょうか?いささか、会頭が受けるには値段が釣り合わないと思いますが」


確かにフェリクスの言い分は正しいがマリアンヌが心配しているのは、別の問題だった。


「確かにドワーフたちから依頼料としてもらった、武器と鎧の値段じゃ釣り合わないかもね」


ドワーフたちは転移する前に、あそこで制作途中や見本でおいてあった物を根こそぎ持ってきていた、流石に無償で助けられるのは忍びないと言う事で、対価にそれらを貰っていたのだ。そして、ダルクの事であるが、ダルクはソロSSSランクの冒険者だ。普通のSSSランク冒険者ならば、その程度の値段で、依頼を受けはしないのだ。ダルクは一番この商会で金勘定に厳しいと言ってもいい。


マリアンヌが心配しているのはそこだった。


「多分、大丈夫だと思うよ、ドワーフの王に恩を売れると思ったら、むしろ無償でも依頼を受けるんじゃないかな」

「・・・それならば大丈夫かも知れませんね、では、会頭への連絡は副会頭、お願いしますね」


ニコニコしながら、マリアンヌはそうフェリクスに言ってきた。


「もしかして、まだ、怒っていますか?マリアンヌさん」

「いいえ、ちっとも思っていませんよ、ええ、よくもまぁ、ここ数か月でこれだけのトラブルに首を突っ込めるものだな、なんて、全然思っていませんよ」

「ハハハ、今度、マリアンヌさんには臨時ボーナスでも出しときます」


仕事の対価は金、普通の事だが、それが出来ない人や国が多い。すぐに出せると言うことは、それだけいい組織と言う事にもなる。最近、フェリクスが仕事を頼み過ぎていたのでその対価はもちろん金という形でフェリクスは返すことにしたのである。


「ありがとうございます、副会頭、それでは失礼しますね」


フェリクスの言葉に明らかに機嫌が良くなって執務室を出て行ったマリアンヌだったが、逆にフェリクスは、父親に連絡しなければいけないと言う事で、少しだけ遠くを見ていた。しかし、フェリクスは直ぐ執務室の中にある商会同士の連絡で使う、遠話の魔法を起動した。


「誰だ、こんな時間に連絡してくる奴は?」

「フェリクスです」

「おお、フェリクスか、まだ、どうして連絡なんか、寄こしたんだ、夏休みすらこっちに返ってこなかったのに」

「ハハハ、ちょっと親父に依頼をしたくてね」


フェリクスが依頼と言っただけでダルクの顔は父親の顔から商会トップの顔に変わっていた。


「それは商談か?」

「いや、ディスガルドに捕らえられていたドワーフたちを救出して、故郷に帰りたいらしいから、その護衛を頼みたいだけなんだ」

「・・・また、面倒事に首を突っ込んでいるようだな」


すこしだけ、ダルクの声色に怒りが乗った。


「それについては否定しないけど、まぁ、大丈夫だよ」

「お前がそう言うなら、これ以上の追及はすまい、そこら辺の見極めだけはお前は間違えた事が無いからな、それでドワーフたちの故郷を知られるわけにもいかない、護衛の力が足りなくてもダメだと感じで俺に頼んできたのと言う所か」


フェリクスの考えている事がすらすらと読める辺り、流石、フェリクスの父親と言う感じだった。


「はい、その通りです」

「で、報酬はどうなっている?」

「ドワーフたちが作っていたその武器と鎧です。もう一つ加えられるとしたら、カリヌーン王への恩ですね」

「いいだろう、久しぶりにクライストの顔でも見に行ってくるとするか」


ほぼ即決とも言える受け答えが、ダルクが商会を大きく出来た理由だろう。


「ドワーフたちの準備が出来たら、また連絡してくると良い」

「ありがとうございます、会頭」

「まぁ良い取引だ、気にするな、それより俺はお前のトラブルの方が心配だから、くれぐれも無理はしないようにな」


さっきまでの威厳は吹き飛んでただただ祈る様にダルクはフェリクスに父親としての頼みごとをした。


「・・・善処します」

「その不自然な間は、な・・・」


父親が余計な一言を発する前にフェリクスは魔法を切った。父親に無事頼みごとも済んだとフェリクスは執務室の椅子に疲れた様に腰かけ、ため息を吐いたのだった。

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