第68話 愚王
ディスガルド帝国のアースガル・ディスガルド王はドワーフたちの武器や鎧で他国と圧倒的な差をつけ、戦争を起こそうと考えていた。そんな中、宝物庫が火事になったという報告が入り込んできた。
「宝物庫が火事とは、どういうことだ―――」
報告してきた兵士にアースガル王は八つ当たりするが、兵士はただただ謝ることしか出来なかった。
「す、すみません」
「陛下、気持ちは、一旦、お怒りをお沈め下さい」
アースガル王を止めたのはこの国で唯一、王を止められる人物、宰相レスター・ウェリカーだった。
「しかし、レスター、これでは計画がパーではないか」
「確かに宝物庫にあったものは燃えてしまいましたが、兵士たちに配っていたものはなくなっていません、数としたては6割と言った所です、逆に考えれば、4割は残っているのです、軍事力と事であれば、強化はされますが下がることはありません。どちらかと言えば、問題なのは、ドワーフたちが逃げてしまった事と宝物庫に有った財源が無くなってしまった事です」
「ドワーフたちは分からんが、財源ならば、また、民から搾り取ればいいではないか」
金ないなら、搾り取ると言っているアースガル王はまさに愚王であった。しかし、宰相のレスターはそれを止められる。
「いえ、それには及びません、陛下、宝物庫の中身は殆どが通貨でしたので、溶けてはしまいましたが、材料がなくなったわけではありませんので、再び加工すれば使用できます。ただ、すぐに使える財源が無くなってしまったのが少し問題なだけです」
この国は宰相レスターによって支えられていると言っても過言ではなかった。アースガル王が暴走寸前の所で宰相レスターが妙案を出して来て、この国を持たせていた。
「つまり、時間を掛かってしまうという事か、まぁ、それぐらいなら我慢しよう」
「ただ、ドワーフたちの武器や鎧によって軍事力は強化されましたが、他国に戦争を仕掛けるとなると少し火力が足らないかも知れません、また、都合よくドワーフたちが捕まるとも限りませんし」
「ではどうするのだ、儂は早く、領土を広げてさらに豊かになりたいぞ」
「そこで陛下には、会ってほしい人物がいるのです」
「こんな時に会ってほしい人物?こんな時になんのだ?お前が言うのだ、余に良い物をもたらしてくれるんだろうな」
期待してそれに応えられなかったのであれば、アースガル王は会いに来た人物を気晴らしに八つ裂きにするつもりだった。
「安心してください、陛下、今から会って頂きたい人物は陛下の望みを叶える者ですよ」
「ならば、その物を早く連れてくるが良い」
宰相の言葉にアースガル王は期待に胸を膨らませて、その者くるのを待った。
「では、入るが良い」
宰相の呼びかけに応じて玉座の前、扉がゆっくりと開き、その人物が現れた。入ってきた人物は、陛下の前で跪くと陛下の言葉を待った。
「うむ、面をあげよ」
その呼びかけに応じゆっくりと入ってきた人物は顔を上げた。
「して、お主は余に何をもたらしてくれるのだ?」
その者は宰相に軽く目配せをすると、それに応じるように宰相が頷いた。
「・・・私が陛下にもたらすのは、新しい兵器でございます」
「ほう、兵器とな、どんな兵器なのか、教えてもたっても良いか、当然、敵軍を相手に出来るものであろうな」
普通ならアースガル王の要求は無理とも取れる要求だった、その者は余裕の表情を崩さなかった。
「ええ、軍隊すら、この兵器なら圧倒することでしょう」
「何と、真か、嘘だったならば、其方の首を今すぐ、飛ぶことと心得よ」
まさか、自分の言った事が叶うと目の前の人物は言ったので、アースガル王は目を剥いて確かめた。
「ええ、本当です、では、このゴースト・フェアエンデルングについて説明しましょう」
こうして、また、この大陸で戦争の火種が生まれようとしていた。
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