第70話 夏休み明け
セイレン学院では夏休み明けの生徒が続々と寮に到着していた。フェリクスも学校が始まる1日前には寮に戻っていた。
「忙しい夏休みだったわね」
「・・・」
シルフがフェリクスに喋りかけるが、フェリクスは、唇に指を当て一言もしゃべらなかった。そして、そのままフェリクスは、家具の裏側や天井に掛けられている盗聴用の魔法を次々と解除して行った。
「よく、そんなものが有るなんて分かるわね?」
「うーん、俺の目だと簡単に分かるからね、それよりも問題は誰がこれを仕掛けたか、なんだけど・・・」
「なんだけど?」
「心当たりがあり過ぎて誰か、分からないよ」
この前の武芸大会でフェリクスは精霊使いである事を各国の王に知られてしまった。そういう意味では、この部屋を盗聴したい連中など腐るほどいるだろう。
「部屋の盗聴を未然に防げただけで良いんじゃない?」
「まぁ、これ以上は調べようが無いしね」
背嚢をベットの脇に放り投げると、フェリクスはそのまま明日に備え、眠りに入った。
次の日、フェリクスが朝食を1階の食堂で食べていると、久しぶり顔を見るアベルが話しかけてきた。
「久しぶりだな、フェリクス、いい夏休みだったか?」
「久しぶり、アベル、いつも通り、色んな事があった夏休みだったよ」
「それは何より、後で話を聞かせて貰おう、面白い話が聞けそうだ」
「そんなにたいした事じゃないけどね」
「俺の方もディスガルド帝国の様子が活発になっていて、少しだけ騒がしかったがな」
「へぇ、そうなんだ~」
その活発な原因を潰してきたのにフェリクスはその事をおくびにも出さず、会話を続ける。ある意味、フェリクスのしてきた事は、国力のバランスを崩してきたと言っていい。フェリクスの発言によってはもしかしたら、戦争に発展する可能性があると考えると下手な発言は出来なかった。
「まぁ、今日から学校が始まるのだ、一緒に勉学に励もうではないか」
「俺はめんどくさいけどな」
「お前は相変わらずだな、フェリクス」
朝食を食べ終わると、2人は、学校に向かった。
教室に着くと、相変わらず、フェリクスは貴族たちから視線を向けられるが、本人は全く気にしない様子で席に着いた。しばらくすると、ヴェルデ先生が教室に入ってきた。
「さて、お前たち、夏休みも明けたが、元気にしていたか」
もはや、軍隊の号令に皆は怯えていて、何も言葉を発さなかった。
「まぁ、良いだろう、2学期になり、お前らが次に行う行事について説明しよう、その行事とは魔術コンテストだ。全く下らぬが、高度な魔術を披露するだけというだけだ。そのコンテストは1か月後に行われ、自由参加で誰でも参加できる。この前の武芸大会の様にクラス代表を決めているようなことはないので、出るかどうかは各自の判断に任せる」
「この前、出場意思のない生徒を強制的に出場させたことは全く覚えてないようで」
小声でフェリクスはこの前の皮肉を言ったが、ヴェルデはその声に反応する。
「何か、言ったか、フェリクス」
「いえ、何も言っていません」
「本当か、言いたいことがあるならば、言っていいのだぞ、この前に武芸大会は色々あったが、お前が優勝したのは事実だからな」
「では一言だけ」
「ほう、言って見ろ」
「絶対に、自分は魔術コンテストには出ません」
その言葉に、ヴェルデの顔にはピキっといった感じに怒りのマークが浮いた。
「初めから、出場拒否とはいい度胸だな、フェリクス」
「自由参加と言ったのは先生では?」
「よし、分かった、フェリクス、お前は強制出場だ」
「ちょ、何で、ですか」
「理由は私が気に入らないからだ」
「なんでーー」
フェリクスが絶望している中、ヴェルデ先生はそんなのお構いなしに、授業を始めるのだった。
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