第62話 ドワーフたちの食事
「あ、そうだ、見たかったら出てきていいよ」
フェリクスはアランに聞こえない様に小声で呟いた。それに呼応するようにシルフとノチスが出てきて、周りの光景を見始める。シルフとノチスは決してフェリクスが人と話している時はフェリクスとの約束で出て来ない。それが分かっていた為、フェリクスは声を掛けたのだ。それほど、フェリクスはこの光景に感動を覚えた。シルフとノチスはこそこそと喋って景色を眺めていた。
フェリクスは少し考えた後、アランに声を掛けた。
「行きたい場所が決まりました」
「それなら、とりあえず降りましょうか」
「はい、そうしましょう」
降りたら、またも建物下に居たドワーフたちに睨まれる事になったが、フェリクスは何も気にせず、一礼をしてその場を過ぎ去っていった。そんなフェリクスの様子を見ていたにドワーフたちとアランは少しだけ呆然となったが直ぐにアランはフェリクスを追いかけた。
「何でそんな態度が取れるんですか?彼らは貴方に良いとは言えない態度を取ったんですよ」
アランにはフェリクスが取った態度の理由が分からないようだった。
「別に彼らの気持ちを考えただけですよ」
「彼らの気持ちを考えたでですか?」
「誰とも知らない若造が、同僚や王様の頼みとは言え、自分の職場にずかずかと足を踏み込んできたんです。あちらとしても余りいい気分ではないでしょう」
「だとしてもフェリクス君が一礼する理由にはならないでしょう」
「しいて理由を言うとすれば、今後の為ですかね」
「今後の為?」
アランにはフェリクスの言うことが分からなった。
「もし次ここに来る人間がいるとしたら、それは自分の印象に引っ張られることでしょう、そして、俺が悪い印象を植え付けたとなれば、今後、ドワーフと人間の交流は難しいものとなるからです」
「・・・本当にフェリクス君は先のことまで考えるんですね」
「これでも商会の副会頭ですから」
その言葉は伝えるフェリクスは何処か、誇らしげだった。
「それで、フェリクス君は次、何処に行きたいんですか?」
結局、急いで降りて来た為、アランは目的の場所を聞きそびれていた。
「それはですね、奥にあった放牧場です」
「またそれは商人目線ですね」
「商人ですから」
「それでは行きますか」
場所が分かったアランはフェリクスに付いてくるようにと言わんばかりに、フェリクスの前を歩き出した。
フェリクス達は、ドワーフの町の端から端に移動した様なもので、フェリクスの目的地の放牧地帯に着く頃には、かなりの時間が経っていた。
「さぁ、見えてきましたよ、ここがドワーフ・ボーズンです。ここでは、主に私たちの食事用の家畜が飼育されています」
そこには豚や牛が放牧されていた。フェリクスは牛や豚に目もくれずに周りを見渡していた。
「どうかしました?フェリクス君」
「すみません、少し気になったことがあったので?」
「はて、気になった事とは?」
「野菜が無いと思いまして」
ブラウンさんが出してくれた料理の中には確かに野菜があったのだ。上から町全体を見た感じだと、ここの土地以外は住宅地だったはずなのでここで野菜が作られているはずだろうとフェリクスは予想していたのだが、肝心の野菜が辺りには見えなかった。
「それなら、この下に有りますよ」
「下ですか」
「はい、動物には病気の問題もありますから、強い光を当てないとといけないので、上にいますが、植物は、そこまで強い光じゃなくて、良いので地下にあるんですよ」
「なるほど、そうなんですね」
「気になるなら行って見ましょうか?」
「そうですね、お願いします」
「こっちです」
アランが指したのは、放牧場の隣にある建物だった。中に入って見るとドワーフたちが食材を求めて建物内に集まっていた。目立たぬ様にフェリクスとアランはその横を抜けていき、地下に続く階段を下りた。地下に続く階段の壁には分かりやすいように、場所の表示が壁に書いてあったが、10階以上場所があるようだった。
「ここまで降りてくるドワーフは余り居ないので、ゆっくり出来ると思いますよ」
「上にたくさん食材を集めているんですね」
「ここまで野菜を取りにくるだけでもめんどくさいと皆思っていますから、野菜を上に運ぶだけの仕事もあるぐらいです」
地下にはそこで育てられている野菜がずらーと並んでいた。
「階事に野菜が違っていて、肥料は上の動物の糞などを再利用しているんですよ」
「本当に考えられて作られているんですね」
「まぁ、考えて作らないと地下だけで生活するのは難しいでしょうね」
つまり、ドワーフたちは本当に地下から出ずにここで自給自足の生活をしていると言う事だ。
「こうなってくると最初にこの都市を作ろうとした人物がどんな人だったのか、気になってきますね」
「それならカリヌーン王に聞いてみると良いかもしれません、何でも代々、王だけに受け継がれている知識があるとかないとか、噂があるのですが、本当かどうか、分からないのです」
「それは面白いですね、今日帰ったら聞いてみます」
「もうそろそろいい時間ですし、帰りましょうか」
「そうですね」
そこからアランにフェリクスはカリヌーン邸に送り届けてもらい、フェリクスの一日目の町見学は終わりを付け告げた。
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