第63話  貴重な本

フェリクスがカリヌーン邸に入るとすでに夕食の準備が出来ているのか、鼻孔をくすぐる匂いが充満していた。


「ただいま帰りました」

「あ、お帰りなさい、いい所に返って来てくれたわ、少し手伝ってくれないかしら?」

「手伝えることなら喜んで」

「これをリビングに運んでほしいの」


ブラウンがフェリクスに頼んだのはやっと両手で持てるほど鍋の移動だった。勿論、フェリクスはブラウンさんの頼みを快く引き受け、鍋を運ぶのだった。フェリクスとブラウンで夕食の準備をし始め、いよいよ完成という所でクライストが帰ってきた。夕食をしながらフェリクスの話題となった。


「町の様子はどうだったんだ、フェリクス?」

「とても計算し作られている町だと思いました」

「ハハハ」


突然、笑い出したクライストにフェリクスは困惑を示した。


「突然、笑い出して、どうしたんです?」

「いや、お前の感想が、最初にここを訪れたダルクと一緒と思ってな、良い商人になったな、フェリクスよ」


ダルクと同じ感想だから、良い商人になったと言われて、フェリクスは微妙な顔を浮かべた。


「それは素直に喜んでいいのか、分かりませんね」

「なんだ、父親と同じと言われるのは好かんのか、ハハハ」

「もうからかうのはその辺にしときなさい、フェリクス君がしゃべりづらそうでしょ」

「別にからかっているわけじゃないんだが、それで今日は何処を見に行ったんだ?」

「町の端にある高い塔とドワーフ・ボーズンに行きました」

「ドワーフ。ボーズンは分かるが良く、ボルンまで登らせてくれたな」


どうやら、あの高い塔はボルンと言う建物らしい。


「あるドワーフに案内を頼みまして、その方が、口利きをしてくれたんです」


フェリクスは名前を伏せて、事柄を説明した。もしかしたら、フェリクスがボルンに登るのは警備の関係上いけない事かも知れないと思ったからだ。


「別に、そのドワーフを怒ったり、せんから安心していいぞ、ただ、あそこのドワーフたちが納得するとはかなりの交渉上手だなと思っただけだ」

「そうなんですか、アランと言うドワーフは直ぐに話をつけていましたよ」

「それはまた凄いな」

「今日は非番と言う事で引き受けて貰いましたけど、出来れば、明日も一緒に回ってみたいですね」

「フェリクスがそう言うのなら、話を通しておこう」

「それは、相手側が大丈夫なのですか?」

「お主の監視という名目であれば、文句を言うドワーフはおらんと思うし大丈夫だろう」

「そういう事ならお言葉に甘えさせて貰います」

「明日、朝一で話を通しておこう」

「それでフェリクス君は行った場所にどんな感想を持ったの?」


ブラウンは話が逸れている業を煮やしたのか、フェリクスとクライストの話に割り込んできた。


「統括するとさっきの計算されている言う感想になるんですが、最初にこの町を作った人がどんな人なのか、気になりました」

「それなら、良い本があるわよ、ねぇ、貴方」

「そうだな、後で持ってくるから、読んで見るといい」


この後もブラウンの質問にフェリクスが答える形が続き、夕食の時間はあっという間に過ぎて行った。フェリクスが寝る前にクラレンスから1冊の本を渡された。


「それがさっき言っていた本だ、ダルクも呼んでない本だ、貴重だぞ~」

「それは本当に貴重ですね」


ダルクは商売柄、手に入れられる本はすべて読んでいると言っていい、つまり、フェリクスが手に入れられる本は大体ダルクは読んでいることになる。フェリクスは今までの人生でダルクより先に新しい本を読んだことがないと思っていた。


「それにしてもよく父がこの本を読みませんでしたね」

「たまたま聞かれなかったからな、タイミングと言う奴だな」

「そうなんですね」


そう思うとフェリクスはこの本の存在を教えてくれたアランに感謝しかなかった。


「読んだら返してくれ」

「わかりました、明日の朝には返します」

「全くお前たち親子は読むのが早いな、ハハハ」


クライストはそれだけ言うと自分の部屋に戻っていった。フェリクスはクライストが去ったのを確認するとすぐに本を読み始めた。タイトルはドワーフの歴史と書いてあり、意外にもあっさりしていた。本の内容は町が出来た経緯やこれまでのやってきた政策などが載っていた。フェリクスはペラペラめくる速度であっという間に本を読破した。


「それにしても何処ででも違う種族に対して迫害が多いな」


フェリクスの感想は色々な本を読んだフェリクスだからこその出た感想だった。


「念のためにもう一度読んでおくか」


そうして、フェリクスの夜は更けていった。


次の日、クライストに手配してもらったことによって、フェリクスの前にはアランが居た。


「また、今日も、ですか?フェリクス君」

「すみません、また、宜しくお願いします」

「明日もと聞いていますが?」

「よろしくお願いします」


フェリクスは笑顔でアランを迎えた。


「はぁ、言われてしまった以上私にどうにも出来ないので案内しますよ」

「そう言うと思っていました」

「全くフェリクス君も人が悪いですね」

「それほどでも」

「別に褒めてないんですが」

「商人には誉め言葉です」

「そうですか、もういいです、それで今日は何処を見るんですか」

「今日はですね・・・」


こうして、フェリクスの案内人として最後までアランは付き合わされることになった。

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