第61話  商人の勧め

フェリクスは周りからとんでもなく視線が飛んでくるが、全く気にしない様子で町を歩いていた。


「それにしてもフェリクス君はよく平気で歩けますね」


遠回りしであるが、フェリクスに向けられている視線の事をアランは言ってきた。


「別にこれくらい平気ですよ、俺に殺意を向けているわけじゃないですから」

「まるで殺意を向けられたことがあるみたいな言い方ですね」

「まぁ、軽く100人以上同時に殺意を向けられていたことはあるますよ」

「どうやったら、そんな状況になるんですか」


フェリクスの発言にアランは呆れる。


「商人だと、何回もそんな状況になりますよ」

「それは商人には成りたくないですね」

「そんなことはありません、商人にはそんなことがどうでも良くなるような、たくさんの魅力がありますよ」


フェリクスは魅力を伝えようと口調に熱が入る。


「例えばですね、この町に美味しい酒を届けようとするとどうしなければいけないと思いますか」

「普通に山を登って来なければいけないと思いますよ」

「そうですよね、しかし、1回だけなら、それでいいと思いますが、仮に、その味を知ってしまったドワーフがまた酒を飲みたくなったら、どうなりますか」

「また、山を登ってくることになるでしょう」

「そうですね、しかし、それが何回も繰り返されると、移動コストばかり掛かって、ここでその酒を提供するにはかなりの金額になってしまします。これを解消するためにはどうすればいいと思いますか?」

「うーん、そうですね、一つは、大量に運んでくる事ですかね」

「確かに、それも一つの手ですね、では他は?」

「他はここで製造するとかですね」

「それも正解ですね、商人は目的の為ならあらゆる方法を取ることが出来ます。自分は商人の魅力とは、あらゆる事が出来ることだと思います。そしてあらゆる事が出来ると言うことは、あらゆる事が叶うと言う事です」

「あらゆる事ですか?」


フェリクスの発言がピンと来ていないのか、アランは首を傾げる。


「そうです、辺境の村に貴重な薬を届けることや国を動かす事さえ出来ます」

「薬を届けるのは分かりますが、国を動かす、ですか、なんだか、壮大すぎて想像出来ませんね」

「小さい商会なら厳しいかも知れませんが、大きな商会になれば、大量の資金を持っています、国にとってはその資金がどう動くかはかなり重要なことなのです、直接、国に交渉が出来るほどに」

「何故、国を動かす必要があるんですか?」

「そうですね、アランさんはここしか知らないので無理もないでしょうが、世の中には色々な理不尽がるんです、それは、暴漢などの単純な暴力だったら簡単な問題かもしれませんが、一部の特権階級の横暴だと一般人だと何もする事が出来ません、そんな状況を変える為には、国などと交渉する必要があるんです」

「それは大変な人生だったのでしょうね」


アランの目にはフェリクスが語っている事が体験談であることが容易にわかった。もしそれが本当であるのであれば、この少年はその短い人生とは裏腹に壮絶な人生を送ってきたことになる。アランの想像に及ばないほど試練を潜り抜けてきたとだと思うと思わず、アランからはそんな言葉が出た。


「まぁ、無いことを祈りますが有事に備えて、色々な武器になるものを持っておくことをお勧めします」

「それはご教授痛いります、私も外の世界に興味あるので商人と言う職業に興味が湧いてきました」

「外に出るなら、何処かの商会に所属するのがいいでしょう、ドワーフと言うだけで、捕まえて奴隷の様に働かせる輩もいるので」

「それは肝に免じておきましょう、ほら、目的の場所が見えてきましたよ」

喋っている間にフェリクスとアランは町のはずれまで来ていた。ここにアランの言う、とっておきの場所があるらしい。

「ほら、あそこです」


アランが指を指した先にはこれまでのドワーフたちの建物からは想像できないような高い塔があった。そこにはカリヌーン邸と同じように守衛のようなドワーフたちがいた。その建物の下には交代するためか、複数人のドワーフが居た。


「少し話を通してきますのでここで待っていて下さい」

「はい、分かりました」


アランはそう言うと下のドワーフたちと何かを喋っていた。すぐにアランがこっちに来てくれと言った感じに手招きをした。その手招きを信じてフェリクスは建物の下に行った。


「全くアランの頼みだからだぞ」


フェリクスは来るなり、そこにいたドワーフにそんな言葉を掛けられた。


「さぁさぁ、フェリクス君、彼の事は気にせず、上りましょう」


どうやら、この建物の上の景色を見せたいらしい。アランが先導して、建物をどんどんと登っていく。そうして、建物の頂上にたどり着くと、そこには町を一望できる場所だった。


「これはまた凄いですね」


その景色にフェリクスは感動を覚えた。町の中心の光源から建物の配置、上から見なければそれらがただの建物にしか思わなかっただろう。しかし、今のフェリクスは別の感想を抱いていた。


「フェリクス君は気づきましたか」

「はい、この街並みはあの光源を中心に計算され、作られていますね」

「そうです、ドワーフの家が低い理由は想像ついたでしょうが、町全体まで計算して作られていると思う人はドワーフの中でも中々いないでしょう」


ドワーフの家が低いのは光源を隅々まで行き届かせる為だとフェリクスは気が付いたが、それ以外にも上から見ることによって、家の建つ間隔や水路の位置、周りの高い建物の配置などが綺麗に見えた。


「なるほど、アランさんがここを勧めてくれた理由が分かりました」

「私もフェリクス君がこれを分かってくれる人で良かったと思いますよ、他のドワーフはいつも景色だと言って、何も感じていません、私は良くここの見張りを交代してもらうのです。ここの景色が好きですからね、だから、さっきも少し無理を通して貰いました」

「なるほど、さっきのやり取りそういう事だったのですね」

「フェリクス君、次の目的地をここで決めましょう、町全体を見ることが出来ますから、ここから、気になった場所に次は行こうかと思います」

「ここの景色を見せるのと同時に次の事も考えていたんですね、すごいです」


そこまで考えていたアランにフェリクスは素直に賞賛の言葉を送る。


「いえ、たいした事でじゃありません、それよりも早めに次の場所を決めてくれると有難いです、下の者が何を言ってくるとも分からいません」

「そういう事なら、分かりました、少し待ってくださいね」


フェリクスはそう言うと、景色をもう一度じっくりと眺めて気になる場所を探し始めた。

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