第60話 町の探索
朝、フェリクスがカリヌーン邸の庭で日課の刀の素振りをしている所に、クライストはやってきた。
「体の芯が全くブレとなんな、良い刀術だ」
「ただの日課ですので」
「さて、仕事前に昨日の言葉通り、暁鏡刀を見せてもらおうか」
クライストの言葉にフェリクスは刀を鞘に戻し、鞘ごと刀をクライストに渡す。クライストはそれを無言で受け取ると刀を抜き、刀の刀身を目線の所まで持ってきて、刀を見ていた。1、2分経った頃、クライストはフェリクスに話しかけてきた。
「ちゃんと使っているようだな、しかし、フェリクス、お主、左手でも刀を扱うのか?」
「はい、使いますね」
「この刀の柄は右手用に作ったからな、少しだけ擦れとると思ってな、フェリクスが両手で使うとなれば、それ用に柄を拵えよう」
「それはわざわざありがとうございます」
「気にするな、元々の儂の想定が甘かっただけだ、暫く刀は預かるがいいか」
「魔法でも戦えるので大丈夫です」
「それに加え、精霊術か、ホントにダルクの言っていた通り、お主が一番才能あるかもしれんな」
刀を鞘にしまいながら、クライストはフェリクスに大丈夫という発言に感心する。
「いえ、剣に魔法、どちらも兄たちに自分は及びませんので」
「だとしても、一般人よりは遥か上を行く実力だろうに」
「世の中にはまだまだ上がいますよ」
「かもしれんが・・・まぁ、ここでこんな話合いしていても意味ないか、儂は仕事に行ってくる、昨日の内にドワーフたちには話を通しておいた、町に出ても大丈夫だろうが、あまり周りを驚かすことはするなよ」
「ありがとうございます、面白そうなので周りを見て回る事にします」
「そうするといい、新しい発見もあるだろう」
そう言い残すとクライストは、部屋に戻っていった。刀が無くなってしまったのでフェリクスは仕方なく素手で、格闘技の練習を始めた。しばらくすると朝食のいい匂いがしてきた。そこでブラウンさんから声が掛かり、朝食となった。朝食を済ますとフェリクスはクライストの助言通り、町を散策することにした。
町に出ようとした時、フェリクスはカリヌーン邸を守っている守衛に声を掛けた。
「すみませんが、誰か、一人自分についてきてくれませんか?」
「何故だ、そんなことを言う人間?クライスト様には一人で散策させるように仰せつかっている」
どうやら、普通のドワーフはフェリクスに警戒心がいっぱいのようだ。今にも腰にある手斧を抜きそうである。
「あの人ならそんな事を言うと思いまして、たぶん、また、一人で意見を通したんでしょう。しかし、他のドワーフは自分が一人で歩いていたら、心配でしょうがないでしょう、なので、誰か一人についてきてくれた方が皆を安心出来るかなと、ついでに場所の説明でもしてくれたら、自分はありがたいと思います」
つまり、フェリクスは周りを安心させるのと同時に案内役が欲しいと事だった。両方にとってWINWINというわけだ。
「しかし、それでは、クライスト様の命令に背くことになってしまう」
「大丈夫です、自分が後で案内役を頼んだと言っておきます」
「・・・わかった、そういう事なら、案内役を出来るものを連れてこよう、少し待っていてくれ」
「ありがとうございます」
正門を守っていた守衛のドワーフの1人は他の者に一言いうと、何処かへ走っていった。すぐに一人のドワーフを連れて、守衛のドワーフは戻って来た。
「この者なら、問題なく、君の役割を果たすことが出来るだろう」
「何なんですか?自分は今日非番のはずですよ、シルス先輩、って、何で人間?」
「説明はさっきしただろう、アラン、この者の監視と町の案内だ」
「それはさっきも言いましたけど、矛盾していますよ」
「そこは気にするな、まぁ詳しい話はこの者に聞くのだな、ほら行ってこい」
ドワーフたちの上下関係が分からないフェリクスはその様子を苦笑いしながら見守ることしかできなかった。
「ほら、行きますよ、人間、説明もちゃんとしてもらいますからね」
「はい、説明させて頂きます」
フェリクスは歩きながら、また同じ説明をアランにした。
「つまり、両方に得があるってことですか、頭がいいですね」
「そちらの方がいいと思いましたので」
「わかりました、でも監視ってのは、なんか違うと思うので護衛件案内と言うことにしましょう。貴方にいい感情を持っていないドワーフが多数でしょうから」
「自分は強いので大丈夫ですよ」
「強い事と襲われないのは関係ないので、考えを改めた方がいいですね」
「・・・これは驚きました、そんな返しをされるは思いもよらなかったです。自分はフェリクスと言います。改めて護衛をお願いします」
にやっと笑ったかと思うとドワーフも自己紹介をした。
「自分は守衛のアランです、趣味は町の探索です、宜しくお願いします」
「なるほど、貴方が呼ばれた理由が分かりました」
フェリクスはアランに敬意を表し握手を求め、アランもフェリクスを認めたように握手を交わした。
「それでは何処か行って見たい場所でもあれば、連れ行きますよ」
「と言っても、場所をあまり知らないので行きたい場所すら、思いつかない次第です」
「それなら、最初は自分のとっておきの場所に連れて行きましょう」
「それは楽しみですね」
こうして、フェリクスとアランの町の探索は始まった。
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