第59話 酒
暫くするとクライストの妻、ブラウンさんが買い者から帰宅した。
「町で噂になっているわよ、フェリクス君」
「お久しぶりです、ブラウンさん」
「そんなにかしこまって少し寂しいわね」
「いえ、そんなつもりは・・・」
「そんなにすぐに大人になる必要ないのよ」
フェリクスの話は全く聞かずに、ブラウンは涙ぐむ、その様子にフェリクスは諦めた様に口調を戻した。
「わかったよ、ブラウン叔母さん」
「まぁ嬉しいわ、今、食事を作ってくるわね」
また、話を聞かずにブラウンさんは奥の台所に消えていった。
「もしかしたら、一番の権力者は儂の妻かもしれんな」
一連の様子を陰から見ていたクライストはブラウンが去った後にゆっくりと出てきた。
「かもしれませんね」
「例の件はもう手配したから、あとは待つだけだ」
「それはありがとうございます」
「俺は叔父ちゃんと呼んでくれないのか?」
「考えておきます」
「そんな苦い顔、せんでもよかろう、ハハハ、どれ、後で刀でも見てやろう、どんな男に成長したかそれで確認できるだろう」
「クライストさんが作った刀に恥じぬ男に慣れていたらいいのですが」
「それは後で確認するとしよう、今は妻の料理を待つとしよう」
「そうですね」
カリヌーン邸にはすぐにいい匂いが家の中を漂いだした。
「準備が出来たわよ」
「頂くとするか、フェリクス」
「そうですね」
食事の準備が出来たと言う事で、リビングの椅子に皆は座った。食卓に出てきたのは肉と野菜を煮込んだスープとたっぷりとアルコール臭をさせたビールだった。これぞドワーフの食事と言ったものが出てきた。普通の人が飲むには強すぎと思われるアルコール臭がするがフェリクスはそのまま一気にビールを飲み干した。
「流石、ダルク家系だな、他の人間でそんなに飲む奴は見たことがないな、ハハハ」
「これに関しては、血筋に感謝したいですね」
実際、交渉する時に接待などでよく酒を飲む機会は多い、前は年を理由に酒を飲むのを断っていたが、ここ周辺国の共通認識なのか、10歳を超えると酒を飲まされる年となっている。フェリクスも例外に漏れず、10歳を超えると酒を進められるようになっていた。そうなると、酒が強くないと色々な問題を抱えることになる。実際、商会で酒の弱い人物は幾人か居て、酔っぱらっている所を注意したほどだ。
「まだたくさん料理もあるから、おかわりなら遠慮なく言って頂戴」
フェリクスが飲み干したグラスにはすぐにブラウンが新たなビールを注ぎこんでいた。それに続いて、クライストもフェリクスに負けず劣らずの速さで直ぐにビールのグラスを空にしていた。
「ぷは、それにしもやっぱり酒はこれにかぎるなぁ」
「そうねぇ、人里の酒は少し、私たちには弱すぎのよねぇ」
人とドワーフの人体の違いなのか、ドワーフたちは強い酒を好む。
「今度、お礼に美味しい酒を探しておきますよ」
「フェリクスがそう言うなら楽しみだな、ハハハ」
そうして、時間は過ぎていき、すぐに夜となった。フェリクスは開いている部屋を使わせてらうこととなっていた。
「元気な人達ね」
一人になった所で、シルフはフェリクスの前に現れた。
「まぁ、ドワーフ王だからね、ドワーフの王はドワーフの王たる人物がドワーフたちから民意で選ばれるんだよ」
「この時代にしては珍しいわね」
「まぁ、人間社会は、階級制度だらけだからね」
「一度、手に入れたものは手放しづらいものよね」
長く人を見てきたからこそ、今の言葉がシルフから出てきたのだろう。
「まぁ、少なくとも自分で手に入れたのなら、俺は別にいいと思うけどね」
「それは貴族のお坊ちゃんたちに対し言っているのかしら?」
「かもしれないね、それでも、ちゃんと統治させしてくれれば、問題ないさ」
「その口ぶりだと、ちゃんと統治で来ていない国があるみたいね」
「・・・もっと南に行った所に、ひどい国はあったよ」
貴族たちの権力に苦しんでいる人たちは逃げることも出来ずに虐げられていた。父には何も分かっていない子供の頃、何度か、どうにか出来ないのかと言ったことがあったなとフェリクスは記憶を思い出していた。
「アンタはちょいちょい、王様みたいな考えをするわね」
「かもしれないね、もう遅い、俺は寝るよ」
話を切るとフェリクスはそのままベットに入り、眠りに入った。
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