第58話  ドワーフの王

地下に人工都市を立てるのは普通、難しいのだが、ドワーフたちの技術力がそれを可能とした。地下とは思えぬほど、町は神々しく光に照らされていた。どういう理屈か分からないが中央に大きな光源があり、それが太陽と同じような役割を果たしていた。町並みは低い建物が立ち並んでおり、屋根には洗濯ものなどが並んでいた。


「お久しぶりです、カリヌーン王」


一礼をしつつ、フェリクスはクライストに挨拶をした。


「儂とお主の中じゃねえか、そんなよそよそしい呼び方はよせ、クライストさんと呼んでいいんだぞ」

「ではクライストさんと呼ばせて頂きます」

「まだ硬いがそれぐらい勘弁してやるか、試しの岩が普通に動いたのが確認されて、どこかのドワーフが帰ってきたのかと思ったぞ、フェリクス」

「前は父が動かしましたので今度は自分で動かすと決めていたので」

「ハハハ、それはまた負けず嫌いだな」

「いずれは越えなければいけない壁ですので」

「それはいい心がけだ、それで今日は何の用でここに来たのだ、もしや、わしの作った刀、暁鏡刀が壊れたんじゃないよな」

「そんなことはありません、刃毀れすらなったことはないですよ」

「それを聞いて安心したぜ、なら何の用なんだ?」

「少し別の事を聞きたくて来ました」


ここで要件の内容を話さない事に何かを察したのか、クライストは話を切り上げた。


「そうかそうか、道中疲れただろう、先に儂の屋敷で休むといい」

「ありがとうございます、クライストさん」

「わははは、気にする事など何もないぞ」


クライストに連れられて、フェリクスは周りにドワーフたちに見られながら移動を開始した。町からは鍛冶が盛んなのか、いくつもの金属音が鳴り響いていた。一同が暫く進むと光源の中央の真下にひときわ広い家、カリヌーン邸が見えてきた。


「フェリクスが我が家に来るのは何時ぶりだ?」

「5年ぶりぐらいでしょうか、刀を作ってもらった時が最後だったと思います」

「そうかそうか、そん時、フェリクスは儂より身長が小さかったのにもう儂を抜いておる、時が流れるのは早いな」

「昔の話ですよ、恥ずかしいですね」

「まぁ、積もる話もあるだろう、中で話をしよう」


話している間にカリヌーン邸の玄関までやって来ていた。そこでひと悶着が起こる。


「お前らはここで引いてよいぞ」

「ですが、カリヌーン王、それでは警備が出来ません、もしもの時どうするのですか?」

「よいよい、ダルクの息子だぞ、変な心配は必要ない」

「ですが」

「くどい、儂が下がれてといったら、下がれ、これ以上言わせるな」

「・・・わかりました、私たちは屋敷の外におりますので何時でもお呼びください」


余りにも強い物言いに警備のドワーフたちは渋々、引き下がっていった。


「ほれ、中に入るぞ、フェリクス」

「ありがとうございます、クライストさん」

「なぁに、このくらい気にせんでいい」


屋敷に入りながら、フェリクスはクライストにお礼を言った。


「妻も今は出かけておるし、一旦、書斎で話すか」

「自分としてもそれがありがたいです」


家の構造は前に来た時の記憶があるので、覚えているので書斎が一番奥にあるは知っているが黙ってクライストの後ろをフェリクスは着いて行く。書斎まで来るとクライストは奥の椅子に座り、フェリクスは促されるままに手前の椅子に座った。


「それであの場で答えなかったこと、聞きたい事とは何なんだ?」

「ここを出て行ったドワーフたちの事について聞きたいのですが」

「何故それを聞く?ドワーフたちを集めようとでもしているのか?」


フェリクスの解答にクライストは眉を顰めた。恐らく返答次第ではここを追い出されるだろう。


「いえ、自分はとある人物を探しているのですが、その人物にドワーフが関わっていることが分かったんです、それでそのドワーフが誰なのか知りたいのです」

「とある人物を直接探せないのか、厄介な問題だな、しかし、お前たちは人物が最終目的ではあるまい、その先の目的はなんだ?そこが分からんとこちらも協力するわけにはいかんな」

「その人物が開発した兵器の破壊です」

「兵器の破壊か、その兵器の奪取ではないのか?ダルクならそう指示しそうだが」

「いえ、父はこの情報は知りません」

「なるほど、だから、お主は迅速に行動しているわけか、因みにその兵器の内容を聞いてもよいか?」

「精霊が材料の、無限に動く兵士です」

「精霊か、フェリクスからそんな言葉を聞く日が来るとはな」


今の発言はフェリクス自体が精霊使いであると言っているのと同義であった。でなければ、精霊が材料とは分かるはずがないからだ。もちろん、ドワーフの王のクライストが精霊使いの価値について、知らないわけがない。


「自分を捕らえますか?」

「そんなことはせんよ、ダルクの怒りを買う事のほうが恐ろしいわ」

「かもしれませんね」

「しかし、無限に動く兵器か、また、そんな厄介なものが開発されているとはな、しかも、材料が精霊ときたか、存在を知らぬものにはその兵器は止められんのだろうな」

「自分はその兵器と対峙しましたが、中の核となる玉を精霊術的な何かで破壊しなければ、それは止まらないと思われます」

「つまり、こういう事か、ダルクに知られる前に、この兵器を抹消したいと思っておるのか」

「いえ、違います」

「違うのか」

「誰かが、兵器として使用する前に、この兵器をこの世から消し去るつもりです」


クライストは自分の髭を触りながら、フェリクスの言ったことを吟味していた。


「ふむ、お主の決意は分かったが、後はどこまで儂がお主の言葉を信用するかと言ったところだな、どうしたものか」

「自分としてはこれ以上の出すものはありません」

つまり、今出した情報だけで判断するしかないと言うことだ。その発言にクライストの顔にさらに皺が寄る。

「いいだろう、ドワーフたちの情報を渡そう」

「ありがとうございます」

「気にする事はない、確かに提示された情報だけでは判断は難しいだろうな、儂はな、お主の人柄を信じようと思ったのだ、誇るならこれまでの自分の行動を誇るんだな」

「いえ、そんな自分はたいした事はした事がないと思いますが」

「お主は謙遜もし過ぎると、嫌みになってくるのを覚えておいた方がいいな、ハハハ、なぁにドワーフたちの情報を聞くのに最低、2、3日掛かるだろう、それまではしばらくこの家に滞在すると良い」

「それはお言葉に甘えさせて頂きます、ありがとうございます」

「まだ、口調が堅苦しいのが問題だが、その内、直るだろう、儂としては妻が帰る前にその口調を直すことをお勧めするぞ」


儂は大丈夫だが、妻はその口調を許さんから気を付けてなという事らしい。


「善処します」

「まぁ、リビングで寛いでいるといい、じきに妻も帰ってくる」


その言葉に従いフェリクスは書斎を出て、リビングに向かった。


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