第54話 勝負の報酬
日も暮れて、フェリクス達はまた、湖のほとりに集まって焚火を起こしていた。
「夕食はどうしましょうか?」
「持ってきた食料はあるが、保存食だから、食べ応えにかけるな」
「何処かで食材を調達してきましょうか」
「それなら、心配しなくても大丈夫」
「え?そうはどういう・・」
アリサの言葉を遮る様にいつもの小人の精霊たちが現れた。
『取って来たよ』
『これ美味しいよ』
『お魚だよー』
小人の精霊たちの手には今旬の生きた魚たちが握られていて、選り取り見取りの状態だった。
「この魚たちは?」
「ここから近くにある川から取って来てもらった、おっと、これは勝負の報酬で変なことを言われる筋合いはないぞ」
「まぁ、もう取ってきてもらったのなら、何も言いませんよ」
アリサは仕方がないといった風にため息をついた。
「さて、ちゃちゃと下処理でもやりますか、湖には何も落とさない方がいいのか?」
「それはやめたほうがいいと思うわ」
「了解、地面に少し血が飛び散るがそれは勘弁してくれ」
フェリクスは懐からナイフを取り出すと、小人の精霊から魚を受け取り、素早く下処理を済ませた。
「これって、木の枝使っていいのか?」
「枝なら使って大丈夫よ」
確認を済ませたフェリクスは下処理を済ませた魚を折った枝に刺して、焚火の所に置いていく。
「あっという間ですね」
フェリクスの様子をアリサはじっと見ていた。
「よくよく考えると、こんなことアリサ姫はやった事、無さそうですね」
「そうですね、全部周りの人がやってくれました。何度か、お願いはしたのですが、触らせてもくれません」
「やってみますか、丁度、まだ、魚は余っていますし」
「いいんですか?」
フェリクスの言葉にアリサは嬉しそうな声を上げる。
「ここには止める兵士もいませんし、俺も特に止める理由はないので」
「なら、やらせて下さい」
「わかりました」
アリサのやりたい意欲を聞いたフェリクスはアリサにナイフと魚を渡す。
「ものに寄りますが、魚の丸焼き場合は、最初に鱗や汚れを取り、後は尾ひれとか食べられない部分を軽く切り落とす。それが終わったら、腹を切り裂いて内臓を取り出して、下処理は終わりだ。後は木の棒に刺して焚火で焼くだけだ」
アリサはフェリクスに教えてもらいながら、魚をさばくが初めてなので切り方がぐちゃぐちゃになってしまっていた。
「すみません、うまくできなくて」
「別に謝る必要はないけどな、初めてやったことなのに出来る方が珍しいだろ、出来るまで付き合うのが教える者の務めだろ」
何を言っているんだと言う感じでフェリクスはアリサの顔を覗き込んだ。アリサはフェリクスの言葉にポカーンとしている。
「おーい、どうした?」
「いえ、何でもありません」
「変な奴だな」
「ねぇ、どう思う、シルフ?」
「今後に期待って所かしら」
「むずむず、するわね」
少し離れた所で、シルフとウンディーネがこそこそと喋っていたが、フェリクスとアリサにはその声が聞こえなかった。
一通り、魚も焼きあがり、フェリクスとアリサの夕食が始まった。
「自分で作った食事というものはいい者ですね」
魚を食べながらアリサは自分の作った魚の味の感想を伝えてきた。
「商会ぐらいなら、1人で来られるの?」
「それぐらいなら可能ですが?何故その質問を?」
「そんなに自分で作りたいなら商会のキッチンでも貸そうかなと思っただけだよ」
「いいのですか?」
アリサの顔にはやりたいと書いてあった。
「ちゃんと金を出すなら、料理をするための食材や器具を完璧に提供すると約束しましょう」
「それでもやってみたいです」
「なら、後で商会のものに伝えときますよ」
「フェリクス君は教えてくれないのですか?」
「・・・時間があれば考えておきます」
これはまずったかなとフェリクスの勘が言っていた。
「それにしても幻想的な光景ですね」
夜の月明かりの中、たくさんの精霊が光って飛んでいる光景は見える者には幻想的な光景になっていた。
「精霊使いじゃないと見られない光景なのが少し残念だけどね」
「残念ですか?」
「精霊使いじゃないと見られないのが少し残念だなと、普通の人にも見られた方がいいじゃないですか」
「それはそうかもしれませんね」
「まぁこんなことを言っていてもしょうがないのですが、所で話は変わりますが、用事が出来たので、明日には俺は帰ろうかなと思います」
「わかりました、なら、私もそうします」
「別にまだここにいてもいいんですよ?」
「いえ、それは父が許してくれないと思うので一緒に帰ります」
何の基準でそうなっているんだとツッコミを入れたかったが、個人の事なのでフェリクスは何も言わなかった。
食事も終わり、後片づけも軽く済ませ、フェリクスとアリサは明日の為にも早めに眠りについた。
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