第55話  帰路

朝、起きたフェリクスたちは出発の準備をしているとユグドラシルが姿を現した。


「出発ですか?」

「はい、さっそく、昨日の事について調べてみようと思うので」


ユグドラシルとフェリクスの会話に一同は首を傾げる。


「そうですか、貴方たちなら、いつでも歓迎します」

「ありがとうございます」


フェリクスが会話している為、アリサは頭を下げるだけで済ませた。


「また、時間があれば来ようと思います」

「はい、そうしてください」


短いやり取りだったが、それで十分と言った感じでフェリクスは荷物を背負うと森の出口に向かった。


森と外の境界線の所まで来るとウンディーネの指輪が光る。入る時と違ったのは指輪があまり光らず、ゆっくりと霧が晴れていく様子が見られたことだろう。


霧が晴れた事を確認した一同は森の外に出た。


振り返って、霧が戻っていく姿を見ていると昨日関わった精霊たちが手を振ってくれいた。その姿を確認したアリサとフェリクスも手を振り返して霧が閉じていくのを見守った。霧が完全に見えなった所で、フェリクス達は王都に向けて出発した。


「それにしても、ユグドラシル様と昨日何か話したんでしょうか?」


走っている王都に返っている途中で朝の会話が気になったのか、アリサはフェリクスに質問した。


「個人的なことだから気にしないでくれ」


そう言われるとアリサとしては何も言えなくなってしまう。しかし、フェリクスは精霊の兵器転用の件を本当に個人的に思ってだけだと思っているだけなのでアリアに話すつもりはなかった。


アリサはいくつか、聞いたりしたが、結局、フェリクスにのらりくらりとはぐらかされてしまい、会話の内容を知ることが出来なかった。


王都に入るとすぐにフェリクスはアリサと別れ、商会に向かった。


商会に戻るなり、フェリクスは直ぐにマリアンヌを執務室に呼んだ。


「野暮用が出来たから、俺はまた出かけてくるから、暫く商会を頼むよ」


背嚢の中身を入れ替えながらフェリクスはマリアンヌに喋りかけた。


「それはまた急ですね、フェリクス君」

「調べないといけないが出来た」

「それは何かの商談の件でしょうか?」

「いや、それは関係ない」

「わかりました、それだけ確認できれば十分です」

「今回は学園が始まるまで帰ってこないかもしれないから、そこんとこ頼むよ」

「元々、副会頭がいない状態で経営していましたのでご心配なさらずとも大丈夫です」

「でも俺が居たら、他の商会より数手先に行けるだろう?」

「副会頭が先を行きすぎなんです、他の商会は泣いていますよ」


夏休み中、フェリクスが暇だからと仕事をやっただけで今月の商会の収益を倍に増やしているで、その商才は異常と言えた。


「ハハハ、世の中、そんなに甘くないからね」


気軽に言っているが、他の商会からはたまったものではないだろう。


「とりあえずは帰ってこなくても商会運営には困らないので大丈夫です」

「冷たいなー」

「ダラダラされる方が私としては嫌なので帰ってこなくて結構です」

「言葉が、ぐさぐさ、突き刺さるな」

「心にも思ってないことを言わないでください」


何回注意しても、ダラダラすること止めなかったフェリクスの事を知っているマリアンヌにはそんな言葉は直ぐに嘘だと分かった。


「まぁ、そういう事だから、宜しく頼むよ」

「はい、分かりました」

「あ、後、そうだ、もしかしたら、アリサ王女がここに料理をしに来るかもしれないから、用意をお願い」

「王女様が料理をしに来る、ですか?」

「自分でしてみたんだって、ホントに何もやった事無いみたいだから、初心者に教えるような感じで準備を頼む、お金はちゃんと払うって」

「なら、私からは何もいう事はありません、しっかり準備させてもらいます」

「よろしく頼む、それじゃ、行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃいませ、副会頭」


荷物の準備が終わった、フェリクスは背嚢を背負うと商会を出て行った。そのままフェリクスは王都を出て、北に向かった。


移動の途中でシルフがひょこんと出てきた。


「今から何処に向かうのよ?」

「ドワーフの住処だよ」

「また、急ね、でもドワーフって他の種族を毛嫌いしているって噂じゃない、どうするの?」

「それも俺の親父が関係を持っているんだよね」

「また、貴方の親父さんなの、どれだけ人脈持っているのよ」

「この刀もドワーフに打ってもらったものなんだよね」

「それだとその刀、国宝級にもなってもおかしくない刀じゃない?」

「かもしれないね、でも俺はこの刀が気に入っているから、金を積まれても売る気はないよ」


何度、この刀に命を救われた事か、フェリクスは刀を握るだけで思い出が幾つも思い浮かんだ。


「アンタがそう言うと、ホントに金を積まれても売らなそうね」

「実際、国の予算ほど出すって言われたことあるよ」

けろっととんでもない事をフェリクスは言うが、シルフはもうだめだといった感じで首を振った。

「それでアンタも凄いわね」

「まぁ、命は金には代えられないよ」

「そうはそうかもね、って話が逸れたわね、そのドワーフの住処に何しに行くの?」

「ノチスをあの鎧にした人物の手掛かりを探しに行く」

ようやくシルフはフェリクスの行動に合点がいった。

「その話をユグドラシル様としていたわけね」

「まぁ、そうだね」

「アリアに言っても良かったんじゃない?」

「一応、あれでも国のお偉いさんに近いからね、話を伝わる可能性を考えると教えられないな」

「後で恨まれても知らないわよ」

「それはその時だよ」

「はぁ」


全くわかってないといった感じでシルフはため息をついた。


「話はこれくらいでいい?」

「ええ、構わないわ」


それを確認するとさらにスピードを上げて、フェリクスは北の山脈、ブランダリ山脈を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る