第53話  本の暗号

皆がお腹いっぱいまで食べた所で、一旦休憩になった。その後は、精霊の森はある程度、見て回ったと言うことで各自の自由行動となった。ノチスはまた、精霊たち遊びに出かけ、アリサ、ウンディーネはその付き添いで一緒について行った。シルフも野暮用があると言って何処かに行ってしまった。そしてフェリクスは最初の湖に来ていた。


「ユグドラシル様、聞きたいことがあるのですが、今、宜しいでしょうか?」


フェリクスが湖のほとりで独り言の様に呟くと湖の中央から巨大な精霊ユグドラシルが姿を現した。


「聞きたいことですか、私が答えられことなら、答えましょう」

「この2つの本について聞きたいんだが」


そこでフェリクスはダンジョンの地下で眠っていた本とシルフが封印されていた本を取り出した。


「その本をどこで」

「その反応は何か知ってそうですね、片方は、うちの学校の図書館で、もう片方はダンジョンの奥で見つけました」

「そうですか、私が知っているのはその豪華な装飾してある方だけですね、それは昔、とある人物が弱った精霊を保護するためにその本を制作していました」

「なるほど、それなら、今までの現象に説明が出来そうです」

「もう一方の本に関しては、普通の本に見えますが、何故ここに持ってきたのでしょうか」


ユグドラシルの瞳には何かが見えているのだろう。そうでなければ、中身を見てないのに本を知っているなど言えないだろう。


「それはこの本の中身が精霊を捕まえて兵器に転用する内容だからです」


フェリクスの言葉にユグドラシルはハッと息を飲む。


「そんなことを行うものがいるのですか」

「まぁ、実際に俺はその兵器をダンジョンの奥で目の当たりにしています」


フェリクスが言っている兵器は紛れもないあの動く鎧のことだ。倒しはしたが、精霊武装があったからであって通常の手段では倒せるか、どうか疑わしい、もしあの兵器がバンバン出てきたら、通常の軍では対処が難しいだろう。


「それは精霊を守護する私としては許しがたいことですね」

「これの本を作った人物に心当たりはありませんか?」

「・・・流石にその兵器だけでは候補が多すぎて特定の人物は思い当たりません」


ユグドラシルは残念ならがという風に首を横に振った。


「そうですか・・・いや、候補ならいるんですよね」

「はい、そのことが可能な人物なら、無数に候補がいますが、数が多すぎますよ」

「条件があれば絞れるかもしれませんよね」

「確かにそうですね」

「条件に精霊語が分かって、尚且つ、高度な暗号を作れる、そうですね、数字に強い人物ではどうでしょうか?」


候補を絞る為、条件を出すフェリクスだが、ユグドラシル様はまだ首を振る。


「それではまだ、候補を絞るには条件が緩すぎます」


フェリクスは自分の見た記憶を掘り起こす。ダンジョンの中で見た情報を限界まで思いだす。


「なら、地下に研究施設をドワーフに頼めるような人物はいないでしょうか」


フェリクスの知識が正しいのであれば、あの施設は間違いなく、ドワーフが作ったものだ。


「その条件なら・・・誰もいないです」


この条件ならと言ったフェリクスに返ってきた言葉は予想外のものだった。


「いない何故ですか?」

「それはドワーフたちが地下に籠ってかなりの年月が経っているからです」

「それはどういう事でしょうか?」

「ドワーフたちが地下から出てくることは通常あり得ません」

「しかし、国の抱えているドワーフなど少数ですが外にいるドワーフがいるのではないですか」


自分の記憶を頼りに、ドワーフの情報を伝えるがその考えは直ぐに否定されることになった。


「そのような事情で出ているドワーフは基本的に場所を移動しませんし、仮に許可が出たとしても地下施設を作るような時間まで長時間離れられるとは思いません。そうなると現状、その条件に当てはまる人物はいません、考えられるのは一人旅に出ていて、まだ定住地を見つけていないドワーフと言うことになりますが、私にはそこまでの詳しい事情は分かりません」

「つまり、可能性はあるけど、自分の知っている中にそんな人物がいないと言う事ですか」

「そういう事になります」

「ありがとうございます、その情報だけでもありがたいです」


いないと言う情報だが、むしろ、複数人候補がいる場合より、人物を特定できる場合もある。


「しかし、何故、このような事を聞くのでしょうか、そんなにその人物を探してどうするのですか」


ユグドラシルはフェリクスを真っ直ぐ見て逸らさない。まるで何かを見透かしているようにフェリクスは感じた。


「そうですね、簡単に言えば、あのような兵器が広がれば、いろいろな被害が増えるからでしょうね」

「被害が増える?あなたには関係ないように感じますが?」

「確かに関係ないかも知れませんね、今、言っているのは顔も見た事ないような人たちの事を言っていますが、それでも国と国の戦争などの時にいたずらに傷つく人たちが減ればいいと思っているからです」


真っ直ぐとユグドラシルの顔を見ながら、フェリクスは答えた。


「本当にそう思っているのですね、私の瞳は人の感情を読み取ることが出来るんです、特に淀んだ感情などは見逃したことはありません。もしよければ、協力していただけないでしょうか」


ユグドラシルがしてきた提案はフェリクスにとっては不思議なものだった。


「何故、俺と協力を?」

「それは、貴方になら任せられると思ったからです。そして私の勘が貴方を必要と言っているんです」

「まだ、受けるとも何とも言っていませんが」

「いいえ、貴方は私が何も言わなくても、自分で調べるはずです。それなら、精霊たちとの情報を貴方と共有した方がいいと思った限りです」


ユグドラシルの言葉にフェリクスは肩をすくめた。


「貴方にはかなわなそうですね、分かりました、協力しましょう、俺のすべてをかけてあの兵器のすべてを破壊すると約束します」

「精霊の為にもよろしくお願いします」


こうして、ユグドラシルとフェリクスの間に約束が結ばれることとなった。

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