第49話 加護
精霊の森に足を踏み入れると入った入口は直ぐに霧に包まれ、外の様子は見えなくなった。
「本当によくできているな、この植物のおかげか?」
「ほら、ぶつぶつ言ってないで行きますよ、フェリクス君」
「はいはい、行きますよ」
森の中をどんどん進んで行くと大きな湖があり、その中心に巨大な大木があった。ウンディーネは湖に近づくと湖の前で跪いた。
「お久しぶりです、ユグドラシル様」
湖の上に突然、ウンディーネやシルフより一回り大きい美しい女性が現れた。
「そうですね、50年ぶりぐらいかしら、そしてそっちの1000年も帰って来てない親不孝者は挨拶もないのかしら」
「相変わらず、お元気そうですね、ユグドラシル様」
「まぁ、いいでしょう、そちらの方々は貴方たちが連れてきたのかしら?」
そちらの方々とはフェリクスとアリサの事を指しているようだった。
「そうです、今の私たちの契約者たちです。駄目だったでしょうか、ユグドラシル様」
「いえ、信用できるのなら構いません、私の目にも何も見えないので安心していいでしょう、ただ、他の精霊たちが少し怯えてしまっているので、いつものをやろうかと思います」
「それなら、もう一名、やってほしい者がおります、ユグドラシル様」
「もう一人ですか?誰なのでしょうか」
「出てきていいわよ、ノチス」
「いいぞ、ノチス」
ウンディーネとフェリクスの声でノチスはフェリクスの後ろにちょこんと現れた。
「まぁまぁ、新しい子かしら、分かったわ、その子にも上げましょう、3人とも私の前に来てください」
ユグドラシルに言われてフェリクス、アリサ、ノチスが前に出る。
「我、ユグドラシルの名の元に汝らに精霊の加護を授ける」
手を組み、祈りを捧げるような姿勢でそうユグドラシルが唱えると3人に光の粉のようなものが降りかかった。
「これでここの精霊には警戒されることはないはずです」
「ありがとうございます」
「ありがとう、良かったな、ノチス」
「ありがとうですー」
それぞれ各自の感謝の言葉をユグドラシルに送った。
「これでここでの目的は終わったわね」
「ウンディーネの目的はノチスに加護を与えることだったんですか?」
「そうよ、ここの加護は他の場所で、あるとないとではかなり違うんだから」
「そんな大げさなものではないですよ、ちょっとした目印みたいなものです」
「そんな謙遜なさらなくても良いのですよ、ユグドラシル様」
「ほんとにたいしたものではないですから、所で貴方たちはどのくらい滞在するのですか?」
その言葉に皆のアリサに視線が集中する。
「私ですか?」
「誘ったのはアリサ姫ですよ、それに俺は別に帰ろうが帰らなかろうが問題はないし、アリサ姫の予定に合わせます」
「そうですね、お父様には軽い旅行に行くとしか伝えていないので居たとしても3日4日って所でしょうか」
「後は俺たちの気分次第って所か」
「そうですか、旅の疲れもあるでしょうし、ゆっくりしていって下さい」
ユグドラシルはそう言うと、湖の奥に姿を消していった。それと同時に加護の効果があるのか、精霊たちがわらわらと森から姿を現し始めていた。
「さて、まだ時間もあるし、周りを見て回りましょうか」
ウンディーネはまるで旅行ガイドの様に皆を先導していた。ノチスはその後ろを楽しそうについて行く。
「俺はここら辺で昼寝でもしておくよ、楽しんでおいで、ノチス」
フェリクスはもう動きたくないのか、湖の周りにある芝で昼寝をしようと横になった。
「私もフェリクスと一緒にいるわ、ここの光景は見飽きているし」
「なら、私たちだけで、見て回りましょうか、アリサ」
「そうですね」
「ご主人様、いなくて大丈夫ですか」
ノチスは遠慮がちにフェリクスの方を何度も振り返っているがアリサとウンディーネは手を握って連れて行こうとした。
「大丈夫よ、本人が楽しんで来てって言っているんだから、行きましょう」
「ほら、ノチス、行きましょう」
そのまま、3人は森の中に消えていった。
横になって昼寝を始めようとしたフェリクスの所にシルフは話しかける。
「それにしてもここで堂々と昼寝、出来るなんてアンタも肝が据わっているわね」
「別に他に寝る場所ないし、大丈夫でしょ、ユグドラシル様もゆっくりしてくださいって言っていたし」
「それを言われたからと言ってゆっくりできる人は少ないわよ」
「それは誉め言葉と受け取っておこう、一つ聞きたいんだけど、食料ってここにあるの?」
「それなら、少し奥に果物があるわよ、なんなら、精霊に取ってきてもうことも不可能じゃないわ」
「なら安心した、どう見ても人がいるような雰囲気じゃなかったからな」
「いつも変な所に気を回すわね」
「俺が気にしているのは結構、大事なことだと思うけどな」
「いろいろ気にし過ぎなのよ、アンタは」
「気にしないよりマシだと思うけどな、とりあえず、寝るよ、用があったら起こしてくれ」
「わかったわ」
それだけ伝えると静かな寝息を立てて、フェリクスは睡魔に身を任せた。
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