第20話  捜索

「なぜ、そんなに急いでいるの?」


クラレンスの所から去ったフェリクスは歩くは程遠い速度で移動していた。


「それはあのブレスレットが理由だよ」

「あれの何が問題なの?ちゃんと魔法の補助としての機能を果たしていたじゃない」

「それが問題なんだ、昔、兄に聞いたことがあるんだ、十分な素材を使わずに性能が出る魔法具には条件があるんだよね、軍で使われていたんだけど、1つの高価な魔道具に多くの安い魔道具を繋げるってやり方を」

「それのどこが問題なの?」

「軍でそれが使われた理由が多くの高価な魔道具を用意できないからって理由だけど、これにはもう一つ使い方があって、それが問題なんだ」

「そのもう一つの使い方って何よ」


「人間爆弾」


「え」

「一つの魔道具に複数の魔道具に繋げて、性能を肩代わりしてもらうってことは逆に一つの魔道具から複数の魔道具に魔力を送れるってことで、戦争時、民間人につけさせて敵国内で同時多発的に爆発を起こしたんだ。この状況でそれが売れていて考えられる可能性は一つ、この国でテロが行われようとしてってことだ」

「それなら、早くあの王女様に伝えた方がいいんじゃない」

「わざわざ、テロリストが一番狙いそうな人にこの情報を教える必要はないでしょ、あの人、真っ先に敵地に突っ込みそうだし」

「言われてみれば、そうね」

「ともかく、今は時間が惜しい、それに連絡する人なら別の人がいる」


フィリクスは自分の耳についているイヤリングの宝石に手を当てた。


「もしもし、マリアンヌさん――」


クラレンスが言っていた商店の近くに来たフィリクスは軽く周りを見渡した。そのままフィリクスは商店の通りをゆっくりと歩き出した。


「何、せっかく来たのに探さないの?」

「・・・」


シルフがフィリクスに質問するが、フィリクスは軽く、唇に指を当て、しゃべれないことをアピールした。


(じゃあ、こっちで行くわね)

「っ」


突然、頭の中に聞こえた声にフィリクスは一瞬だけ、声を上げそうになったがすぐに平静を保った。


(これは契約している人だけが使える念話ってやつよ、便利でしょ)

(出来れば、事前にあることを説明してほしかったけどね)

(それで、何で声を出さないの)

(テロリストなら、一番警戒するのは、ブレスレットを売る時だからだよ、俺なら売る客を観察する、それによってテロが成功するか、失敗するか、が決まるんだから、そして監視をするなら、この通りからかなと思って)

(なるほどね)

(暇なら、この通りで怪しい奴を見つけてきてくれ)

(いいわよ、そのくらい)

(さてと、俺はこっちに集中しますか)


時間は夕方ということもあり、通りは客で賑わっていた。


フィリクスが道を歩いていると、突然、声を掛けられた。


「若、じゃないですか、今日はどうしたんですか?」


声をかけてきたのはクレソン商会の小売店の店員だった。


「たまには様子でも見に来ようかなってね、調子はどう?」

「ばっちりと言いたい所ですが、最近、魔道具の売り上げが落ち込んでいるんですよ」

「そうなのか、うちの品質に問題は?」

「それは絶対にないと保証します」

「なら、他の所の売り上げが上がっているのか」

「はい、その通りです、若、しかし、どうもおかしいんです、その店」

「もしかして、格安で魔道具を売っていたりする?」

「その通りです、何でわかるんですか、若」

「いや、ただの勘だよ、それについてはこっちで調べてみるから、今日の仕事頑張ってよ」

「わかりました、若」


(そっちはどう、シルフ)

(どうもこうも怪しい奴、見つけたと思ったら、どっか行っちゃったわよ、追いかける?)

(追いかけていけるなら、そうしてもいいけど、見つからないでね)

(私は精霊よ、普通の人間には見えないわ、別に大丈夫よ)

(万が一の可能性を考えてだよ)

(わかったわ、場所がわかったら、戻ってくるわ)

(さてと、もういないと思うけど、その小売店の場所を見に行きますか)


フェリクスは他の見張りがいることを考えて、ゆっくりと人の波に乗り、魔法具の小売店が売っている場所にやってきたが、やはりそこには何もなくなっていた。


(さてと、俺を見ているのは2人か)


フェリクスはこの通りに入ってずっと視線を感じていた。なので、シルフの声にも反応をしなったし、売り場が片付けられることも推測できた。正直、監視の連中を倒してもいいのだが、そうしてしまうと後で厄介なことになるので、放置しておいたのだ。


正直、もうここにいても意味がないのでフェリクスはゆっくりと歩いて通りを戻っていった。


気配がなくなったところで、フェリクスは、王都のクレソン商会に急いだ。

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