第10話  教え

ダンジョンに入ると中には光源がなく、フェリクスは小さな炎4つ、5人を囲むように作り出した。


「それじゃいくか」


他の4人は小さく頷くと、フェリクスに続いた。


フェリクスは速足で地図に記されていた地下へと向かう階段に向かっていた。途中、モンスターのリザードマンが出て来たがフェリスは刀の一振りで片付けていた。


ある程度進んだ所でフェリクスはアルに話しかけた。


「それじゃ、アル君はダンジョンについてどのぐらい知っているかな?」

「ダンジョンコアによって魔物が生まれる場所ですかね」

「半分正解かな、それは自然発生するダンジョンのことだね。まだ他にダンジョンに昔に作られた遺跡を指すこともある。さて、今回のダンジョンはどっちに当てはまると思う?」


アルはフェリクスの説明を聞いて周りを見渡した。地面はしっかりと整備され、自然に作られたものとは思えない。


「昔に作られたダンジョンですか」

「違う」

「じゃ、自然発生したダンジョンですか」

「違う」

「それじゃ何だって言うんですか」

「昔の遺跡にダンジョンコアが出来てしまったダンジョン、つまり、その2つのダンジョンが合体したものだ」

「・・・」


フェリクスの説明にアルは唖然としている。確かにCランクのアルは新しいダンジョンなど潜ったことはないだろう。しかし、しっかり考えればわかる問題をフェリクスは提示した。


「それじゃ、次だ、何故、俺はライト系の魔法ではなく、ファイア系の魔法で光源を作っている?」


フェイクスは淡々とダンジョンについての質問をアルに答えさせた。アルが答えられなくてもフェリクスは特に叱ることもなく、分かりやすく説明をしていく。モンスターが来ても話すことを止めなかった。


フェリクス達は話している内に地図で記載されている限界まで来ていた。ここからは慎重に行くかと思いきや、フェリクスは歩みを緩めなかった。


「ここからはトラップが解除されていない可能性がある、よく注意しろ、クロエ」

「わかっていますよ、若」


フェリクスの予想に反し、道中トラップが設置されていることは無かった。


フェリクス達はそのまま進み、直ぐに下へ続く階段が見つかった。見つけるまでの時間が1階と地下1階までの時間と余り変わらないことにアルは首を傾げながらも、フェリクスに続く。


そのペースで地下5階までフェリクス達は降りた。途中のモンスターは段々と強くなっていったが相変わらず、フェリクスの刀の一振りにより片付けられていた。


「こっちだ」


またも、フェリクスは迷わずに道を突き進んでいく。


「どうして、フェリクスさんは道が分かるんですか?」


アルはフェリクスの言葉によってようやく確信が持てたのか、自分の疑問をフェリクスにぶつけた。


「それはさっき言った2つのダンジョンが合体したことと関係している。ひとつは人工物の建物であることから、柱の位置や階段の位置が決まっていること。そして、もうひとつは、ダンジョンはダンジョンコアに近づくほどモンスターが強くなる。建築の勉強まではする必要はないと思うが、ダンジョンの性質は覚えておくといい。さぁ、お出ましだ」


少し広い場所に出たと思ったら、目の前に現れたのは地龍だった。


「ドラゴン・・!」


アルはその姿に呆然と見上げることしか出来なかった。他の4人は手慣れたもので素早く戦闘態勢を取った。


「レオナルド、雑魚の相手はすべて引き受けるから、俺に成長を見せてくれ」

「わかりました、若、クロエ、ソフィア、いつものフォーメーションだ」


ボープフラッグのメンバ―が地龍と向き合った中、フェリクスは今まで来た道の方を振り返った。地龍のそばにリザードマンの取り巻きがいるのにも関わらず。


「さて、ここで問題だ、アル、ダンジョンコアが危険にさらされているとわかったら、ダンジョンコアから生み出されたモンスターはどんな反応を見せると思う?」

「そんなのダンジョンコアを守ろうとするに決まって・・・」


アルはそこでフェリクスが道を向いた理由を理解した。自分たちは恐らく最短でここまで来た、しかし、それでも少なくないモンスターと戦闘を行ってきた。正確なダンジョンの大きさは分からないが、そのすべてのモンスターが一気に迫ってくると考えただけでもアルはかなりの寒気を感じた。


「アルには悪いんだけど、防御魔法を張るから、そこから動かないでレオナルドたちの連携でも見ていてくれ」


フェリクスは左手の五本の指からそれぞれ魔法陣を描き、アルの周りに防御魔法を張った。


「五重魔法陣!」


基本的に魔法は同じ効果の物を重ねるだけ強くなる。しかし、フェリクスほど、器用に魔法陣を掛けるものはそういないだろう。文字の書き間違いや全体のバランスが崩れていると魔法はうまく発動しない。なので、普通の魔法使いはある程度大きく魔法陣を書いて、魔法を発動させようとする。アルは瞬時に5つ同時に魔法陣を描く人なんて聞いたことが無かった。


フェリクスはもう3つ魔法陣を描いた。それにより、地龍の周りにいたリザードマンたちは発生した電撃で瞬時に消し飛んだ。


「これでよし」


フェリクスは光源として使っていた小さな炎を部屋全体に広げて、さらに今まで来た道にも小さな炎を作り出して送り出した。それによって、モンスターが山の様になだれ込んでくる様子が見てとれた。


「さてと、やりますか」

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