第9話  ダンジョン

次の日、早朝、フェリクス達は商会の前に集合していた。


「ダンジョンはここから馬車で3日かかるんですよ、どうやって行くんですか」


アル少年は昨日とは打って変わって口調が変わっていた。ダンジョンの場所を知っているアルは当然のような疑問をフェリクスに投げかけた。ホープフラッグの人達は既にわかっているのか、何も言わない。


「これで行く」


フェリクスが懐から取り出したのは手の平に収まらないほど長方形の結晶だった。


「それって転移結晶ですよね。めちゃくちゃ高い奴ですよね」

「自分で作ったから問題ない結構、魔力を食ったけどね、今回はスピード命だからね」


自分で作ったという発言にアルは怪訝そうな顔を浮かべるがフェリクスは本当の事なので肩を竦めた。


転移結晶とは高位な魔術師がその魔力を特別な結晶に入れておいたものだ。それにより使い切りだが一回だけ転移が誰にでも使えるものだ。ちなみに結晶自体の値段は安いので普通の庶民でも買うことが出来る。しかし、結晶を使う魔力が膨大すぎて常人では溜めるのに1年以上かかってしまう。理論上はそれであれば、一般人でも転移結晶に魔力をため込めば、使えるのだが術式も同時に練りこまなければならないので、実際には無理な話だった。


「それじゃ、いくよ」


フェリクスは結晶を砕く。それによって5人はダンジョンに転移した。


浮遊感と共に目の前に現れたのは布を木の棒で支えている壁だった。


「ここは?馬車の中?」


そこは幌馬車と呼ばれる馬車の中だった。


「若、やっと来ましたね」


馬車の前方から顔に無精ひげを生やした男が現れた。


「いつもありがと、ハロルド」

「これが自分の仕事ですからね、気にしないでください」


この馬車の中に転移先が指定されている。緊急の要件がある場合+商会の転移先がない場合に限り、この馬車が使われている。緊急の要件がある場所にこの馬車が行き、転移先としての役割を果たしていた。


「では、自分はこれで、若」

「ありがと、また、よろしく、ハロルド」


フェリクス達が馬車から降りるとハロルドはコトコトと馬車で走り去っていった。


「さて、いきますか」


ダンジョンの入り口らしき場所には仮設のテントが作られていて、冒険者が列を作っていた。冒険者のギルドではダンジョンが発生した際、立ち入りを制限するようにしている。それはダンジョンの危険度が分かっていない段階でランクの低い冒険者がダンジョンに潜ることは自殺行為に等しいからだ。


フェリクスはテントの上を見て、長い列の横を進んでいった。受付のそこにはAランクと言う表示がされていたがその受付には誰も並んでいなかった。


「この5人で臨時パーティをお願いします」


フェリクスが受付嬢に向かってギルドカードを渡した。他の人もそれに倣う。


「わかりました」


受付嬢の人はギルドカードを専用の機械に通して何かを打ち込み始めた。


「フェリクスさん、ホープフラッグ、アルさんの臨時パーティはAランクに認定されました。ダンジョンに潜ってもらって構いません。現在、他のAパーティ2組が探索中で地下2階まで攻略が進んでいます。現在、確認されている情報でBランクのパーティも制限付きですが地下1階まで潜ることができます。もう少し時間が経ちましたら、Bランクのパーティの人たちが潜ることになりますので早めの探索をお勧めします」


受付嬢はギルドカードをフェリクス達に返した。そのギルドカードにはAランクの証である赤いラインがアルのギルドカードにも引かれていた。


「わかりました、ダンジョンの地図はありますか?」

「地下一階までならありますが複写が出来ておりませんので、ここでしかお見せ出来ませんが構いませんか?」

「構いません、お願いします」

「畏まりました」


そう言うと受付嬢はすっと地図を出してきた。フェリクスは一瞬だけ見ただけで後ろに引いて他の人に地図を見せた。他の人も地図をじっくりと覚えて、地図を受付嬢に返した。


「ありがとうざいます」


フェリクスはお礼だけ言うと、すぐさまダンジョンの入り口へと向かった。


「時間がないので手短にフォーメーションを説明するよ。俺、クロエが先行する。その後ろをレオナルドとソフィア、そして、真ん中にアルだ」

「「「了解」」」


ホープフラッグのメンツは意味を理解できたようだが、アルは取り敢えず、頷いている。


「アルには歩きながら説明するよ」


ギルドカードをダンジョンの入り口に立っている職員に提示して、入り口を開けてもらった、フェリクス達はダンジョンへ踏み込んだ。

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