第8話  依頼

フェリクスは結局、10冊ほど本を借りて部屋に戻った。


そのまま、その日は本を読んで1日は終わった。フェリクスが寝ている内に本は11冊になっていた。


休日になり、フェリクスは王都のクレソン商会を訪れていた。


「すみません、少し厨房を貸してほしいのですが」

「これはフェリクス様」

「その呼び方はやめて下さいよ、マリアンヌさん」

「ふふ、分かりました、厨房の件は問題ありません、いつでも使用していただいて構いません」

「ありがとうございます」


お礼を言うとフェリクスは商会の奥へと消えて行った。


(しかし、フェリクス君は何を厨房で作るのでしょうか)


フェリクスが作っていたのは妖精に上げるクッキーだった。保存が効くので旅の間も少しだけ持っていたが、妖精たちに全て上げてしまい、ストックが切れてしまったので商会に作りに来たのだ。


クッキーを作っていたフェリクスだが、何やら外から騒がしい声が聞こえてきた。


「おい、新しいダンジョンが見つかったらしいぞ」

「まじか」

「稼ぎ時だ――」


会話の内容から想像するに新なダンジョンが見つかって、活気立っているようだ。ダンジョンは危険もあるが魔物が落とす魔石や未知のマジックアイテムなど、豊富な資源がたくさん眠っている。自然に発生するダンジョンもあるので冒険者にとってはいい稼ぎになっている。


「浮かれすぎかな」


確かに金になるのがダンジョンだが、今の雰囲気は命の危険などを考えていない感じだなとフェリクスは感じた。


(こんなときは多分)


そこに食堂に近づく足音が聞こえてきた。


「フェリクス君、会頭から貴方に速達の手紙が来ました」

「了解です、こっちに投げてもらっていいですよ」


基本的に商会も利益が欲しいため、冒険者を雇ったりするが大体は商会専属の冒険者がダンジョンに行く。


レアアイテムなど、見つけた際に商会に報告しない者などが出てきてトラブルなどになるからだ。そして、その中で一番確実な方法は自分でダンジョンに潜ることだ。そうすれば、レアアイテムを他の誰にも取られることもない。


ダルクの手紙にはダンジョンの詳細と王都のAランクパーティと一緒にダンジョン行ってほしいという旨が書かれていた。


読み終わるとまたもフェリクスは手紙を魔法で燃やした。料理の後片付けも終えていたフェリクスは作ったクッキーを腰巾着に入れた。


「マリアンヌさん、商会のAランクパーティ、ホープフラッグの所に案内お願いします」

「ダンジョンの件でしょうか?」

「ああ、親父からダンジョンに一緒に潜ってくれと」

「わかりました、そう言うことならご案内いたします」

「お願いします」


案内されたのは商会の中の裏側だった。マリアンヌはフェリクスを案内すると一礼して商会の受付けへ戻って行った。そこにはいつくかのパーティが居た。フェリクスは顔を知っているので真っ直ぐ、ホープフラッグの所に向かった。するとバスターソードを背負った青年がフェリクスに話しかけてきた。


「これは若、お久しぶりです」

「久しぶり、レオナルド」

「例のダンジョンの件ですかね」

「ああ、そうだよ、親父が一緒に潜ってやってくれってさ」

「それは心強いです、若」

「おい、お前、レオナルドさんに、何、気軽に話しかけているんだ」


フェリクスとレオナルドが話していると1人の少年が割って入ってきた。


「彼は、新人かな」

「すみません、若」

「いや、別に大丈夫だよ、レオナルド、俺のことを知らない人は大体、あんな感じだよ」

「お前、レオナルドさんの事、呼び捨てにしてー」

「アル、いい加減にしろ、この人は――」

「いや、いいレオナルド」


レオナルドを手で制すとフェリクスはアルと呼ばれ少年に向き合った。


「アル君だったかな」

「そうだ」

「なんで、俺がレオナルドに話しかけてはいけないんだ?」

「それはレオナルドさんがこの商会の筆頭のAランクパーティだからだ」

「Aランクパーティだと、気軽に話をしてはいけないのか?」

「そうだ」

「それじゃ、話かけられるような奴だと、証明すればいいんだな、ほら」


フェリクスは懐から金属の板を取り出した。それはギルドカードと呼ばれるもので自分の魔力を通すと身分を証明できるものだ。


「Aランク!しかもソロ」

「これでいいかな」


ギルドのランクにはS、A、B、C、D、Eのランクがある。それプラス、ソロとパーティでランク付けされている。もちろん、ソロのAとパーティのAでは雲泥の差がある。


「レオナルドを慕っての反応、なんだろうけど、今後はやめた方がいいかな、冒険者としても商会としても」

「・・・」

「ほら、もいいだろアル、引っ込んでいろ」


レオナルドに止められて、フェリクスからアルは引き離された。とぼとぼとアルは離れて行ったがその背中には悲しさが見て取れた。


「ふむ、レオナルド、今回のダンジョン、あの少年も連れて行こうか」

「正気ですか、若、彼はCランクですよ」

「俺が守れば問題ないでしょ」

「確かにそうすれば問題ないですが、それだと若に来てもらった意味がなくなってしまいませんか?」

「そうかもしれないけど、俺が守らなくても、もう大丈夫だろ、レオナルド」

「・・・若にはかないませんね」

「それじゃ、決定と、朝の初めの鐘が鳴る前に集合でいいかな」

「わかりました、アルには私から伝えておきます」

「それじゃ、明日」

「はい、明日お願いします」


フェリクスはそう言うと商会を後にした。

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