第7話 入学式
「えーであるからしてー」
「ぐ――」
校長の話は短めに終わったのだが、王宮からきた使者の話が異常に長く、他の物が何とか意識を保っている中、フェリクスは盛大に寝息を立てて寝ていた。
そのまま入学式が進み、終わりを迎えた。フェリクスは全生徒から猛烈な視線を受けていたが退場する時でさえ、欠伸をしながら退場していた。
教室に帰って来てもその視線は止まらなかったがフェリクスは気にせず、本を読んでいた。
「フェリクス、あれは流石に悪目立ちし過ぎじゃないか」
頬が緩むのを必死に我慢しながら話しかけてきたのはアベルだった。
「別に聞く必要がないと思ったから、寝ていただけだよ」
「・・・」
真顔で言っているフェリクスにアベルの顔は引きつった。傍から見ても必要ないからと言って、入学式で寝るのは異常に見えるだろう。
「それより、これから授業ってマジか」
「フェリクスは何も持ってきてないけど、大丈夫なのか」
他の生徒は早速、ノートを広げて、筆記用具を取り出していた。
「ああ、それは大丈夫だ」
「何も持ってないんだろう、俺のノートを貸してやろうか」
「いや、ホントに要らないんだ―――」
何故、フェリクスにノートが要らないかを説明しようとしたら、教室の前の扉が開いた。勢いよく開いた扉から出て来たのはスラっとした長身の短髪美人だった。
「私は担任のヴェルデ・エレオノール以上だ。授業を始める」
それだけ言うとウェルデは黒板に文字を書き始めた。いきなりの事に生徒たちは困惑を隠せないが、授業を始めると言っている以上、生徒たちはそれに従うほかない。
教室内は黒板にチョークで書く音とノートに鉛筆で書く音しか聞こえない中、フェリクスは何も書かず、黒板を見ていた。
ひとしきり、黒板に書いた後で、ヴェルデは生徒たちに視線を向ける。生徒たちを見るが1人を除いて自分の書くスピードに追いておらず、必死に黒板とノートに睨めっこをしている。
「そこの生徒、何故、何も持っていない?」
1人だけノートも持たず、黒板を見ているのだ、当然、ヴェルデの視線はその生徒に行く。
「必要ないので」
「なんだと」
ヴェルデの眉が吊り上がるが、フェリクスは淡々としている。
「紙とペンが勿体ないので」
「貴様、やる気はあるのか」
「お金が発生している以上、やる気はありますよ。先生が書いた内容が、魔法学の教科書、だいたい30ページまでの内容をまとめたものであることが分かるくらいには」
「ふん、いいだろう」
ヴェルデは軽く鼻を鳴らしたがそれ以降、フェリクスに何も言わず、他の生徒が黒板の内容をノートに写すまで待った。
「さっき言われた通り、私の担当は魔法学だ。お前たちが一端の魔法使いになれるようには訓練するがやる気のないものについては叩き出すので、覚悟するように」
それだけ宣言するとヴェルデは黒板の内容を説明し始めた。
授業が終わり、ヴェルデが教室から退室した瞬間に、フェリクスは眠りに着こうとしたが、アベルがすかさず、声を掛けた。
「寝るな、フェリクス」
「寝たいんだけど、何、アベル」
「お前、まさか、教科書全部、覚えたのか?」
「商人ならこれくらい皆やっているけど」
「ノートとペンを持ってきていないのは?」
「それはさっき説明したけどな、ノートとペンだけでどれだけすると思っているんだ、貴族とか、金に余裕があるものしか使えないよ」
「お前は大商人の息子だろう、金に余裕はあるだろう」
「授業内容を全部覚えられるなら、紙やペンなんていらないだろう」
「・・・」
フェリクスの言動から教科書を全部、覚えてきたと判断したアベルだったが、それ以上の解答がかえってきて唖然としてしまった。
そんなアベルを放っておいてフェリクスは次の授業までの睡眠に入った。
他の授業でもフェリクスは態度を変えずに同じことを繰り返していた。不思議と先生の方は最初に注意するだけで、ノートに書きなさいと強要まではせずにそのまま授業を続けた。
そんな感じで入学初日を終えたフェリクスは放課後、図書館にいた。勿論、アベルも一緒着いてきていた。
「ふーん、中々の蔵書数だね」
そういうもののフェリクスは見るだけで本に触ろうとしない。
「どうしたんだ、フェリクス、本を探さないのか」
それを不思議に思ったアベルはフェリクスに声を掛ける。
「いや、何でもない、ただ、今、見ている棚の本は全部見たことがあるだけだ」
アベルがまた、唖然としてる中、フェリクスはそのまま本を取ることなく、図書館の奥に進んでいく。ふとフェリクスは1冊の本を手に取った。
「これは・・・」
フェリクスが手に取った本に豪華な装飾がされているにも拘らず題名もなく、中も真っ白なページが続いていた。
「なんだ、その本?」
フェリクスの横でアベルは本をのぞき込んで、首を傾げていた。
「分からない」
フェリクスは本を持ってカウンターに行った。
「すみません、この本が何なのか教えてほしいんですが?」
「うーん、その本はこの図書館の本ではありませんね」
「この図書館にあったんですか」
「わかりました、いったんこちらで預かって調べてみます」
事務的な対応をされ、これ以上することが何もなくなった、フェリクスはアベルと共に図書館を後にした。
フェリクスは図書館を去った後もその本の事が気になり、頭から離れなかった。
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