第127話 エウリュディケのソラシド
新世界のエウロペの飛空艇は「エウリュディケ」という名前だという。
レンジとショウゴ、そしてピノアは、イルルに連れられ、飛空艇の艦橋へと案内された。
「ひさしぶりだね、ソラシド。
あ、名前はソラシドで良かったかな?」
レンジは、飛空艇の魔法人工頭脳に話しかけた。
「はい、私の名はソラシド。
この飛空艇エウリュディケの魔法人工頭脳です。
ですが、申し訳ございません。
そちらのアルビノの魔人のお方様が、ライト様とリード様の真のお姿だということはすぐにわかったのですが……」
「ボクの名はイルル・ヤンカンシュだよ。メモリーに新しく記憶しといて。
それから、いつまたふたりに分かれるかわからないから、ライトとリードのことは消さないでおいてほしいかな」
「了解致しました、イルル様。
ですが、他のお三方のことはメモリーにありません。おそらくは、はじめまして、だと思われるのですが……」
ソラシドは当然のことながらレンジたちのことを覚えてはいなかった。
しかし、
「ねぇ、ソラシド、このピノアお姉さまのこと、忘れちゃったの?
今ね、ステラ女王様の大ピンチなんだけど」
「ピノアお姉さま……? ステラ女王様……?」
「そ、ゆっくり想像してみて。
アンフィスがあなたに教えたはずだよ。
えっちな格好をした女王様がムチを持って、こう言うの。
『ステラ~・リヴァイアサンだよ~』」
「『あたしに叩かれたいのは、どこのどいつだい~?』」
ソラシドは、まるで合言葉のように、ピノアに続いた。
「今、すべてを思い出しました。
お帰りなさいませ、ピノアお姉さま、秋月レンジ様、大和ショウゴ様」
「なんなんだ? このカオス以上にカオスなやりとり」
ショウゴはレンジに尋ねた。
ぼくに聞かないでほしい、とレンジは思った。
「おや? レンジ様が、ステラ女王様にされたい願望、性癖のようなものだと、アンフィス様から聞いていましたが、違うのですか?」
うん、言わないでくれないかな。
ショウゴがレンジを見る目が明らかに引いていた。
「ソラシド、すぐに西に向かって飛んでほしいんだ。
目的地は、クライの南、エテメンアンキ」
「神に仇なす者たちを閉じ込める牢獄に、ステラ女王様が閉じ込められているということですね?
発進後、すぐにアルファポリス形態に移行します。
このソラシド、ステラ女王様のためならば、全力全開フルスピードで向かいましょう」
すぐにアンフィスから聞いた自分の性癖について人に話してしまう癖はともかく、前の世界と同じで本当に頼りになる仲間だな、とレンジは思った。
「彼はレオナルドのことは?」
レンジはイルルに尋ねた。
「知らないはずだよ。彼のことは城の上層部の者しか知らないはずだからね。飛空艇専属の技師は知らされていない」
イルルはそう答えたが、
「レオナルド様はやはりお亡くなりになられたのですね」
ソラシドは知っていた。
「五日前にレオナルド様が私に会いに来てくださいました。
自分が近いうちに何者かに殺されるだろうとおっしゃられておりました」
レオナルドは、自分が作った魔装具をその何者かに奪われてしまわないよう、飛空艇の中にすべて隠させてくれと言ったのだという。
「レオナルド様は、今思えば前の世界の記憶をお持ちだったのでしょうね。
こうおっしゃられておられました。
『今回はサトシに先手を打たれた。レオナルド・カタルシスを完成させたが、使い物にならない。だから、今回はお前に任せる』と」
どういうことだろうか?
ソラシドが、レオナルド・カタルシスやゴールデン・バタフライ・エフェクト以上の秘術を生み出すのだろうか?
それに、今回はサトシに先手を打たれた、という言い回しも妙だった。
まるで前の世界の神も父であり、前回レオナルドは先手を打てたが、今回は彼がダークマターの浄化方法を編み出すことを父が知っていたために逆に先手を取られた、そう聞こえる言い回しだった。
彼は、この数日、レオナルドから受けた指示の通りに、ソラシド自身や彼のプロトタイプであるドレミファを元にした新たな魔法人工頭脳の開発を行っていたという。
まだ完成には至っていないようだったが、
「レオナルド様は、魔装具と共に魔痩躯(まそうく)という人工の体を遺していかれました。
私が生み出す新たな魔法人工頭脳のための体です」
まったくとんでもない天才だ、とレンジは思った。
「エテメンアンキまではどれくらいかかる?」
「三時間ほどです」
「じゃあ、少しのんびりしよう」
艦橋に皆を残し、レンジは甲板へ向かった。
その後ろをピノアがついてきた。
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