第126話 再会

 レンジが謁見の間を出ると、ショウゴとイルルがソファに座り心配そうに待っていた。


「城内にダークマターやカオスの実験施設はなかったよ」


 イルルはそう言い、


「国王はレンジに何の用だったんだ?」


 ショウゴはレンジに尋ねた。


 謁見の間で国王から聞いたことをレンジはふたりに話した。



「そうか、ステラが……」


「まさか、エテメンアンキに捕らわれているとはね」


「エテメンアンキ?」


「バベルの搭というのは聖書における名称にすぎない。

 それらしき建造物がエテメンアンキと呼ばれるものなんだ」


「助けに行かないといけない。手伝ってくれるか?」


 レンジの言葉にショウゴは大きくうなづいてくれた。

 だが、イルルは違った。


「キミの父親が大厄災を起こした神であり、国王がはじまりの男だったのなら、罠かもしれないよ」


 イルルは、前の世界の記憶を取り戻した瞬間に、国王の顔が前の世界と違うことに気づいたという。

 だが、前の世界のエブリスタ兄弟はレンジの父の顔を知らなかったため、彼女は国王の正体に気付けなかったそうだった。


「罠かもしれなくても行くしかないんじゃないか?」


 ショウゴの言う通りだった。

 ステラが本当にそこにいる可能性があるからだ。


「エテメンアンキは遠い。エウロペからはるか西のクライという国の南に存在するんだ」


エテメンアンキは7階建てで、高さは90メートルほど、最上階には神殿があるという。

 100年前に、大厄災前の世界の記憶を持つ者が現れはじめ、神に仇なす者とされ牢獄として再利用されるまでは無人の建造物であったという。


「現在は魔法人工頭脳によって建物全体が管理されている。

 内部は大気にエーテルが存在せず、魔人も体内のエーテルを使えないような処置を施される。

 たとえアルビノの魔人でも脱獄できない」



 聖書によれば、テラにおいて、バベルの塔は、神の怒りを買うことも、雷によって破壊されることもなかった。

 神は、その塔が自らのもとへたどり着くことはないとわかっていたのだろう。

 また、アダムとリリスを楽園から追放したわけでもなかったため、たとえ自らのもとにたどり着いたとしても何ら問題はなかったのだと思われる。

 前の世界にもそれらしき塔があると聞いていた。未完成のまま放置されていると。

 それがエテメンアンキだったのだろう。

 そのため、人が神によって言語をわけられることもなく、テラは世界中で共通の言語が用いられており、国や地方によってなまりや方言はあるがこの世界の言語はひとつしかないと。

 その文法は英語や中国語のようではなく、日本語に限りなく近いものであると。


「ボクはついていくことができない。

 二大賢者であるエブリスタ兄妹としての仕事を山ほど抱えているからね」



「なら、わたしがついていってあげようか?」


 聞こえるはずのない声が聞こえた。


「クソガキふたりがフュージョンしたところで、どうせステラどころかわたしにもかなわないんだから」


 ピノアの声だった。


「大厄災の魔法は、術者以外のすべての人と、人が存在した痕跡を跡形もなく消した。

 でも、大厄災が起きたとき、わたしは、大厄災の対象にはならなかった。

 わたしは、ステラから分けられた力が自我と肉体を持った存在だから。

 人じゃないってのはさすがのわたしもショックだったけど、でもそのおかげで世界の終わりと始まりを見ることができた」


 ピノアはレンジのそばに姿を現した。


「4000年ぶりだね、レンジ」


 彼女はレンジに抱きついた。


 レンジにとっては数時間ぶりでしかなかったが、ピノアはそんなにも長い時を生きてきたのだ。


「レンジならきっと来てくれると思ってた」



「ボクがクソガキなら、キミはロリババアだ、ピノア・カーバンクル」


「誰がロリババアだ、合法ロリって呼べ!!」


「いいだろう、ボクも同行しようじゃないか。

 ボクなら飛空艇の出航許可を出せる」



 3人のやりとりを見ながら、また俺は蚊帳の外どころか空気になりそうだな、ショウゴはそう思った。




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