第123話 第三の聖書 ②
ルルワは、アダムから逃れるために楽園から逃げ、地上に遺棄されたふたりの兄を探したという。
彼女はふたりの兄を見つけ、その五体不満足の体に魔法の義手や義足を作り、ふたりの兄に「カイン」と「アベル」という名をつけた。
カインとアベルは自らが「『神の子』の子」であることも知らなければ、アダムやリリスに代わり「真の父母」となり「王の王」となるべき存在であることも知らなかった。
だからふたりは、アダムとは異なり、ただただ純粋にルルワを愛した。
ルルワは、二番目の兄アベルを伴侶に選び、彼との間に子を残した。
それに嫉妬したカインは、アベルを殺した。
そして彼女を犯し、子を産ませた。
それは新世界における人類最初の殺人であり、人類最初の強姦であった。
旧約聖書では神の寵愛を一身に受ける弟を兄が殺し、前の世界の救厄聖書では才能に溢れた弟が無能な兄を見下して殺していた。
そして、この世界では男女関係のトラブルによって人類最初の殺人が起きていた。それも、それがひとりの妹をめぐってふたりの兄が奪いあうだなんて。
イカれていた。
たとえ、人類が地上に3人しかいなかったとはいえ、イカれているとしか思えなかった。
アベルとの間に産まれた子も、カインとの間に産まれた子も、それぞれ双子の男女だった。
アベルの子どもたちとカインの子どもたちは、互いにルルワの子でありながらも父が違うため、父を殺されたために憎みあい、別々の土地に住み、決してその血が交わることのないように子孫を遺していっていたという。
以来数千年にわたり、この新世界は、アベルの子孫たち「アベルズ」と、カインの子孫たち「カインズ」が、互いを憎みあい続け、戦争を繰り返していた。
「ショウゴ、どうやらこの世界には、大厄災の魔法は存在しないみたいだ」
「でも、イルルになる前のエブリスタ兄妹が、2000年前にアンフィスが大厄災を止めたって言ってたぞ。
1000年前にもジパングのアベノ・セーメーが大厄災を止めたってさ」
「この世界における大厄災は、魔法による世界中を巻き込んだ戦争のことみたいだ」
聖書の最後には、やはり大厄災の預言があった。
だからこそ「救厄聖書」なのだ。
「預言によれば、1000年に一度、人類が滅亡しかねないレベルの世界大戦が必ず起きるそうだよ。
毎回、アルビノの魔人がそれを止めるんだってさ。
アベルズとカインズというふたつの人種が、世界を滅ぼしかねないレベルの戦争を1000年に一度ずつ引き起こしてる。
だから、アンフィスやアベノセーメーはそれを止めた。
いくらアルビノの魔人でも、ひとりで戦争は止められないだろうから、ふたつの勢力に対抗できるだけの第三勢力のようなものを率いていたんだと思う」
ふたつの人種の戦いは今もなお続いているようだった。
そして、この時代でおそらく第三次魔法大戦が起きるのだ。
「イルルが第三次魔法大戦を止める第三勢力のリーダー、ラクス・クラインってわけか。
で、お前がキラ・ヤマトで、……あ、ヤマトは俺だから、俺がキラで、お前はアスランだな」
第三勢力とかレジスタンスとか好きなんだよ俺、とショウゴは言った。
彼が場を和まそうとしてくれているだけだということはわかっていた。
だが、レンジは、前の世界において、自分たちはレジスタンスのような存在であったかもしれないと考えてしまった。
そして、レンジはジョン・コナーではなかった。ステラはレンジにとって恋人であると同時にサラ・コナーのような存在であったかもしれないが。
同じレジスタンスでも、彼はルーク・スカイウォーカーだった。
父が正気を保ってくれていたから、ルークがダース・ベイダーを殺したように父殺しをせずにすんだだけだった。
「人は何故いつまでも自分が産まれるより前の時代に起きたことにこだわって戦争を続けるんだろうね」
「歪んだ歴史教育による洗脳だろ。
この世界は前の世界より、どっちかっていうと俺たちの世界に似てるな。
大厄災を起こした奴は、こんな世界を望んでたのか?」
どうだろうね、と言ったレンジに、
「で、その大厄災を起こした神の名前はわかったか?」
ショウゴは尋ねた。
「ブライ・アジ・ダハーカでないことだけは確かだよ。ハオジ・マワリーのままになってるからね」
大厄災を起こしたのは、ブライと違い自己顕示欲や承認欲求の塊のような男ではない。
だが、その者もまた、前の世界に、そして人に絶望し、自らが神となり新世界を作ろうとした。
その神が望んだ世界がこの世界だというのなら、神は戦争をまるで野球やサッカーのように観戦して楽しんでいるということだった。
そんな世界にレンジやショウゴといった異物を放り込まれた。
神は、それによって三度目の魔法大戦がどう転ぶかを楽しみにしているのだ。
許せない、とレンジは思った。
「お待たせしました。国王陛下への謁見のお時間です」
衛兵にそう言われ、ふたりは立ち上がった。
そして、ふたりは謁見の間へと招かれた。
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